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神を殺す絶対条件  作者: 霧下 まろ
1/1

 車が横転した。そして炎上する。

 中から男が出て来る。服に引火したのだろうか。体は火に包まれていた。


 いったい何を見せられているのだろうか。


「君の家族だよ。未練があったら困るだろう?」


「………は?」


 何を言ってるんだ? 改めて空中に投影された映像を観る。

 なぜ気づかなかったんだろう。

 引きこもっていたからだろうか。家族で旅行なんて遠い記憶だ。

 家族は優しかった。不登校になっても、優し気に接してくる。

 

 だから、殺意が湧いた。


 目の前にいる、神を自称する男に。

 確かに、未練はあった。でも、死ぬときの現場を見せなくたっていいだろう。


「ああ、違うよ。殺したんだ。きれいさっぱり忘れれると思ってね」


「…………」


 何を言ってるんだ? 殺した? 俺の家族を?


「お、まえッ!!」


「なんだいその目は。気に入らないね」


 俺の体が光に包まれる。本能で理解する。ここに居続けることは出来ないと。


「まあ、君の代わりなんていくらでもいる。せいぜい頑張ってくれたまえ」


 馬鹿にしたような。尊大な態度。


「……殺す」


 その言葉を最後に、俺の体が完全に光に包まれた。


 ◆


 人は平等ではない。必ず優劣がある。


 神がそう作ったからだ。


 人は差別される。弱いというだけで。醜いというだけで。

 

 神は言った。「ならば分けよう」と。


 そして世界は、二十の層に分かれた。


 優れた者が上に。劣った者が下に。


 ◆


 最下層。


 人としての、種族としての最底辺が暮らす場所。


 そこに俺、森山凶一が暮らしていた。


 暮らすと言っても家はない。路上で寝る。

 宿で寝ることも出来ない。

 底辺の底辺。金など持ってるはずがない。

 

 そしてここは屑が大量に湧いている。

 

 この町に、いや、この層に太陽はない。月もない。

 あるのは上から与えられた光という人工物だけ。

 与えられるだけまし。暗いところはまだたくさんある。


 俺がいるココも、例外なく暗い。

 幸に夜目は利く。暗い部屋で過ごしていたのが功をなした。

 

「ねぇ君ぃ~」


 馴れ馴れしく、肩を組んでくる。

 

 舐めている。


 話すだけ無駄。ただ、攻撃の意思を感じたら、そのときは……。

 そう思っていると、周りに数人湧いてくる。

 おそらく、この男の仲間。


 すぐさま隣にあった顔を肘で歪める。同時に相手の足を払う。

 よろける、こける。


 その隙に前に向かって走り出す。全速力で、後ろは見ない。

 すぐさま体を闇夜に隠す。

 走りながら、ポケットを探る。


 金がない。油断していた。俺のミスだ。


 なけなしの、水を変えるかもわからないほどの金額。

 それでも、俺にとっては全財産だ。当然悔しい。


 この借りは、きっちりと返す。


 闇に紛れ、横になる。

 すっかり慣れてしまった。

 体を丸める。こうすると見つかりにくい。

 動ける体制は論外だ。

 ここでは見つかったら負けなのだから。


 そうしているうちに意識は沈んでいった。


 ◆


 もう一度、あそこを通る。


「ねぇ君ぃ~」


 当たり。やはりここでチンピラのまねごとをしていたのであろう。

 恐らく本職だが。


 肩を組まれるよりも前に、眼球にナイフを刺す。

 ボロボロの、刃毀れだらけの小さなナイフ。されどナイフ。効果は敵面だ。


「うぐぁっ!!??」


 待機していたであろう、男の仲間が駆けつける。

 

 逃げる。昨日よりも遅く。


 追いつかれるか、追いつかれないかのギリギリで。

 走る、そして角を曲がる。

 すぐそこに、(障害物)がある。


 分かっていたから、跳んだ。

 すぐさまナイフを構える。


 追っ手は、障害物に躓く。こけた男の心臓あたりを一刺し。

 そしてすぐ逃げる。これを繰り返す。


 全員殺すまで。


 一人、また一人。


 仲間が死んでいく。恐怖は、伝染する。

 逃げる、敵が。

 いつの間に追いかける側に変わっていた。


 血濡れのナイフと、返り血で染まる服。


 グサリ。断末魔を聞きながら、服を漁る。

 金、少ないが貰っておく。


 疲れた。俺は寝るために、闇を彷徨い歩く。

 死体は隠さなくていい。どうせ誰かが処理するし。


 なにより殺人(そんなこと)は日常茶飯事だからだ。


 歩いているといい場所を見つけた。ここで寝よう。


 

 これが後に、【凶人】と呼ばれる男の始まりだった。


 まだ伝説は、始まったばかり。



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