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【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権 ~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~  作者: 月夜野繭
第一章 聖女選抜試験

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8.当たりくじ、ハズレくじ <モーリーン>



 あたし、聖女様なんだって!


 ひと月ほど前に、東方神殿で行われた聖女選定の儀。

 あたしはそこで、聖女として選ばれた。

 まあ、当然と言えば当然かも?

 あたしは『花のモーリーン』。

 街で一番の器量良しだし人気もある。マリアーナがいなければ、ね。


 あ、お客様だ。


「いらっしゃいませ!」


 両親の経営する仕立て屋の店先で日向ぼっこをしていたあたしは、明るく挨拶をしてから、はっと気づいて口を押さえた。


 いけない!

 今はあたし、『蕾のマリアーナ』なんだった。

 まだしばらくは地味に暮らさなければならない。面倒だなあ。


 マリアーナはあたしの双子の姉。

 小さいころから大人しくて聞きわけがよくて、人に好かれていたマリアーナ。あたしと同じ顔をしているのに、あたしよりも可愛がられるマリアーナが大嫌いだった。

 双子なのに、まるで年上のような態度を取るのも腹が立つ。

 だから、少しずつ悪い噂を広めて、マリアーナの評判を落としてやった。


「何かご入用ですか?」


 店に入ってきた客に、ちょっと陰気なかんじを作って声をかける。

 明るい屋外から薄暗い店内に入ってきて暗さに慣れない客が、目をすがめてこちらを振り返った。


「……わぁ」


 凄い美形だ!

 背が高くしっかりと筋肉がついているのに、身軽に見える。

 明るく輝く銀色の長い髪に、蜂蜜みたいな黄金色の瞳。彫りの深い顔はこの辺では見たことがないほど整っていた。


 これは『当たり』かもしれない!






 聖女になって。

 最高の当たりを引いたと思ったら、とんだハズレくじだった。

 聖女にはせっかく女神の加護があるのに、それを国王陛下に譲って、また普通の女に戻らなければいけない。そのうえ、加護を譲る手段が初夜だなんてふざけてる。


 だけど、ハズレだと思ったら、やっぱり本当は当たりだった。

 国王陛下、渋くてかっこいいんだもの。しかも、国で一番偉くってお金持ち。最高じゃない?

 マリアーナなんかにはもったいない。

 あーあ。ほんと、入れ替わるんじゃなかったわ。

 次こそは当たりをつかまなければ!


「よし」と気合いを入れて、美形の男に声をかけようとしたら、店内に置いてある見本の布地や中古の衣類を眺めていた男が話しかけてきた。


「女物の服が欲しい」


 あたしをジロジロと見ながら、ぶっきらぼうにつぶやく。

 美形は声までいいのかしらね。小さくてもよく響く声はなめらかで甘く感じる。


「どのようなものをお探しでしょう?」

「あんたが着ているようなものを」

「若い女性用の普段着かしら」

「あと、外套とか外出着とか……下着もいる」

「一式ね。寸法は?」


 あたしの体を上から下まで眺める。


「……あんたと同じ」


 あらあら、この人、あたしに気があるのかしら。もしかしてあたしへの贈り物にしようとしてる?

 このドレスを君に……なーんて。

 どこかで見初められたのかな。無愛想なのも照れているから?


「うふふ、あたし、あなたの恋人に似てるの?」

「恋人じゃない」

「まあ、恋人じゃなければ、妹さん?」


 ちょっと怒ったように眉をひそめる。

 これはますます脈ありかも。


「その一式を何組か。できるだけ早めに欲しい。古着でもいい」


 なんだ、古着か。

 贈り物じゃないのね。


「ちょっと待ってて。適当なのがあるから、今持ってくるわ」


 あたしと同じ寸法の古着、という注文にぴったりなマリアーナの服を何着か渡すと、男はすべて買い取った。

 まあ、不要品が高く売れてよかったわ。


 それにしても、見れば見るほどかっこいい。なんて美形なのかしら……。


「あたし、この店の娘なの」

「……そうか」

「この街は初めて? もしよければご案内しましょうか」


『蕾のマリアーナ』のことはいったん忘れて、思いっきり可愛らしく微笑み、上目遣いで男を見あげる。

 大体の男はこれであたしを意識するようになる。


「急いでいる」

「そう? じゃあ、ぜひまたお店に寄ってね」

「…………」

「あたしはモーリ……マリアーナよ。あなたは?」


 男は無表情な顔で、吐き捨てるように言った。


「……ヴォルフ」


 かさばる荷物を軽々と抱えて去っていく。振り返りもしない。


 これもハズレかあ。

 あたしに好意を持たないなんて、変わってる。

 でも、初めてをあげるなら、こんなかっこいい人がいいな。






 * * * * *






 王宮から急ぎの使いが来たのは、それからすぐのことだった。

 あたしは両親と一緒に、迎えの馬車に乗りこんだ。

 馬車を引く馬が疲れてくると新しい馬に替えられて、ほとんど休む間もなく王宮へとひた走る。


 使いのひとは詳しく話してくれなかったけど、王都にいるマリアーナが何かヘマをしたに違いない。

 うまく切り抜けなくっちゃ。

 あたしが本物の聖女なんだし、なんとかなるだろう。


「……そうだ!」


 どうせなら、国王陛下と仲よくなれないかしら?





モーリーン視点の番外編でした。

お店に現れたイケメンは誰!?(笑)


次回、第二章「身代わり聖女、追放される」スタート!

一話目は「鳥籠からの解放」です。

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