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【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権 ~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~  作者: 月夜野繭
第一章 聖女選抜試験

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7.かりそめの花嫁になる日



 大神殿を出て、王宮へ行く日が来た。


 わたしが『聖女』になる日。

 国王陛下の秘められた花嫁になる、運命の日……。


 聖女の衣装だという真っ白なドレスに身をつつみ、丁寧に手入れをされて艶を増した黒髪を繊細な宝石で飾られたわたしは、見かけだけはまるで本物の聖女のようだった。


「本当にお美しいです、聖女様」

「……綺麗にしていただいて、ありがとうございました」


 このひと月で教わったとおりに、優雅な礼をしてみせる。

 こんな華やかに装ってたくさんの神官に見送られ、豪華な馬車に載る自分をまるで他人事のように感じた。






 王宮は大神殿よりもさらに壮麗だった。

 聖なる水晶をその手に掲げた白髪の神殿長のあとに付いて、長い廊下を歩いていく。その先にあるものを想像すると、大神殿を初めて見た時のように周囲を見回す気にはなれなかった。

 この廊下の先にある大広間に、国王陛下や貴族たちが集まっているはずなのだ。


「……っ」


 急に現実が迫ってくる。

 胸が苦しくなって、思わずしゃがみこみそうになった。


「聖女様、大丈夫でしょうか。緊張しておられますか?」

「はい……、申し訳ありません」


 ささやき声で気遣ってくれる神殿長に、小さくうなずく。


「……ふぅ……」


 なんとか気持ちを落ち着けなければ。


 ……わたしを癒してくれるもの。

 聖女ではない、ありのままのわたしを見つめてくれた金の瞳……。


 頭の中に、あの銀色の狼を思い描いた。


 時が止まったような静かな夜。

 夜の闇を照らす、白い月の光。

 そっと寄り添う体温。


 ヴォルフ。

 お願い、ヴォルフ。

 わたしをここから連れ去ってほしい……。

 今すぐに。


 ……でも。

 それはできない。

 たとえヴォルフがあの不思議な力を使って迎えに来てくれたとしても、わたしは彼と行くことはできない。


 わたしが逃げてしまったら、父さんや母さんはどうなるの?

 街の人たちやこの国に住む人々の生活は?


 作物を育てるお日様に大地を潤す雨、豊かな実りを喜ぶ人々の笑顔に、たくさんの子供たちが上げる歓声。


 わたしに女神の加護はないけれど、かりそめの聖女すらいなくなってしまったら、穏やかな暮らしどころか希望さえ失われてしまうかもしれない……。


 わたしは身代わりの聖女。

 すべてが偽りであっても、もう前に進むしかなかった。






 * * * * *






「聖女モーリーン、こちらに」


 いつもにこにことした気のいいおじいさんにしか見えなかった神殿長が、大広間の中央に設けられた演壇の上から重々しくわたしを呼んだ。


「女神レクトマリアに祈りを」


 聖女継承の儀。

 国王陛下や国の重鎮たちの前で、女神様に新たな聖女だと認めていただく儀式なのだということだった。

 すでに東方神殿で聖女選定の儀をすませているので、今回は形だけだとも言われている。


「愛と豊穣の女神レクトマリアよ」


 わたしはできるだけ声を張って、女神様に祈りを捧げる。


「わたくしは聖女モーリーン。女神の加護を賜り、その御心を申し伝える者。あなたを愛し敬う民に、偉大なる女神の恩恵を与えたまえ」


 祈りを捧げてから、聖なる水晶の前にそろそろと手を差し出す。


「…………」


 もう少しで、水晶にわたしの指先の影がさす――その時だった。


「きゃあ!」


 バチバチッと音を立てて、水晶のまわりに激しく火花が舞った。天井に向かって真っ直ぐに、閃光と白い煙が立ちのぼる。


「なんだ、何が起こった?」

「陛下、ご無事ですか!?」


 大広間にいる人々がざわめき、近衛騎士が国王陛下に駆け寄った。

 水晶のそばに立っていた神殿長が大声で叫ぶ。


「水晶が……!!」


 聖なる水晶が――一点の曇りもなく透きとおっていた水晶が、わたしの目の前で真っ黒になっていた。


「聖なる水晶が……」


 その黒い球は、無惨にひびわれていた。






 儀式は中断し、わたしは捕らえられた。

 とはいっても前代未聞の事態で、わたしに罪があるかどうかもはっきりせず、大神殿の聖宮に軟禁されているだけだ。


「聖女様……、きっと何かの間違いですわ」

「すぐに外出のお許しも出ますから、元気を出してくださいませね」

「それにしてもあんなことになるなんて、このあといったいどうなるのでしょうね……」


 わたしと一緒の部屋にいる女性神官たちもひどく不安そうだった。


「皆さんにもご迷惑をおかけして申しわけありません」

「聖女様、そんな」


 神官たちは口々にわたしをかばい、わたしが原因ではないかという疑惑を否定してくれる。


 でも、わたしは知っている。

 わたしが偽物の聖女だったから、聖なる水晶は壊れてしまった。

 わたしのせいなんだ……。


 食事はあまり喉を通らず、ほとんど眠ることもできない。

 そのまま何も音沙汰がなく、十日が過ぎた。






 * * * * *






 至急王宮に来るようにという知らせが来たのは、まだ夜明け前のことだった。

 あまりに早い時間の使者に、不安な胸騒ぎがした。





『聖なる水晶』を壊してしまったマリアーナは軟禁されてしまいました。

このまま偽物の聖女だとばれてしまうの!?


次回はモーリーン視点の番外編「当たりくじ、ハズレくじ」です。

もうすぐヴォルフが登場しますので、あと少しだけお待ちください……!

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