仔狼が寝たあとで
生まれた時は人間の赤ちゃんよりも小さかった子供達も、だいぶ大きくなった。
もう目も見えるし、もちろん耳も聞こえる。よちよちしながらも、あちこち動きまわるので、起きている時は目が離せない。
「もう眠った?」
「ああ。あやしているうちに、まぶたが重くなって、そのまま寝た」
「ふふ」
女神様に言われた通り、子供達は仔狼の姿で生まれてきた。
灰色と黒色の、双子の男の子。
淡く輝く雲のような灰色の毛並みの子はグラウ、艶やかな夜闇のような黒い毛並みの子はナハト。
お耳がちょっと丸っこくて、つぶらな瞳をしたちっちゃいもふもふは、本当に食べちゃいたいほど可愛い。高い声でキュンキュンと鳴いて甘えてくる姿を見ると、可愛すぎて涙が出てきてしまう。
大きくなったら、人化できるようになるみたいで、それも楽しみだ。ふたりはどんな少年になるんだろう?
「この寝台、素晴らしいわね」
「気に入ってくれて良かった」
子供達は、ヴォルフが作ってくれた赤ちゃん用の小さな寝台で、すやすやと眠っている。寝台のまわりに柵が付いているので、寝ている間に落ちる心配をしなくてすむ。
「マリアーナの体調は?」
「ん、大丈夫よ。最近は夜、ちゃんと寝てくれるようになったから」
よちよち歩きができるようになった子供達は、体を動かす分疲れるのか、やっと夜の間、まとまって眠るようになった。
それまでは、数時間おきに起きていたので、睡眠不足が続いて大変だったのだ。
赤ん坊を愛しそうに見ていたヴォルフが、そのままの目でわたしを見て、そっと手にふれた。
「ヴォルフ……」
「口づけてもいいか?」
「……して……」
音を立てないように、静かに口づける。
ゆったりとした穏やかな口づけに、体がほどけはじめた。
「ん……」
寝台に横たえられ、柔らかく抱きしめられる。ただ抱擁しているだけでも、ヴォルフの肌のあたたかさと規則正しい鼓動に、心の奥が癒された。
「……あぁ……」
ゆっくりと優しい口づけ。身をよじるような激しい快感はない。
けれど、彼に愛されているのだと、より深く感じた。
「マリアーナ……」
「ヴォルフ……愛してる」
気持ちは不思議なくらい穏やかなまま。
「ああ……俺も愛している」
ヴォルフはわたしを横向きにし、自分も横たわって、後ろから腕を回す。
「あたたかい……」
ヴォルフが漏らした吐息が耳にかかった。
「うん……あたたかいわ……」
背中に感じる大きなぬくもりに、ときめきを感じたその時――。
「キューン」
子供の鳴き声がした。
「……!」
一度声を上げただけで、起きる気配はない。静かな寝息も聞こえてくる。
泣いているわけではなさそう……? 寝言かしら。
振り返ると、ヴォルフも耳を澄ませながら、こちらを見ていた。
「様子、見る?」
「ええ……いい?」
「ああ。もちろん」
ヴォルフに抱きあげられる。
「え……? わたし、歩けるわよ?」
「離したくない」
ヴォルフが駄々をこねるように、主張した。その場で立ったまま、わたしの頭に頬をこすりつけ、すりすりする。
もう……、最近子供のことばかりだったから、甘えてるのね?
「……うん、じゃあ、抱っこしていってくれる?」
ヴォルフの気配がぱあっと明るくなった。ちゅっちゅっと口づけが降ってきた。
ヴォルフに抱えられたまま、赤ちゃん用の寝台を見に行くと、子供達は穏やかな寝息を立てて眠っていた。
走りまわる夢を見ているのか、時々足が宙を蹴る。むにゃむにゃと何かつぶやいて、兄弟に身を寄せる様は、とても微笑ましかった。
「クゥン……」
「……ん?」
今のはヴォルフだ。
人の姿なのに、狼の甘え声。
「ヴォルフ、大丈夫そうだから、寝台に戻りましょうか……?」
わたしが声を殺してささやくと、ヴォルフはわたしを抱いたまま寝台に戻ってくれた。
しんと静まり返った部屋に、静かな寝息だけが響く。
その夜の静寂を破るのは――、
「クー……」
「キュー……」
「クゥン……」
赤ん坊と……夫の可愛らしい鳴き声の三重奏。
狼達の寝言を聞きながら、わたしは幸せな眠りについたのだった。
とりあえずここでいったん完結にします。
ありがとうございました♪
機会があったら、また、マリアーナ達のその後や双子の仔狼のお話、眷属神達の番外編も書いてみたいです!




