もふもふ達の男子会
「番が欲しい……」
「あんなに可愛い番がいたら、毎日楽しいよね……」
「ヴォルフにだけ運命の出逢いがあるのは、不公平ではないでしょうか……」
アホ狼が根城に決めた、湖の岸辺。
憎らしいほど明るい月が、たくさんの酒瓶と、アホ狼の番ちゃんが作ってくれたツマミを照らしている。
「はぁー、どこにいるんだろ、僕の番」
ため息が止まらない。
そして、酒の勢いも止まらない!
今日は、アホ狼と番ちゃんの結婚式だった。
幸せいっぱい夢いっぱいなふたりを家に送り返したあと――わびしく酒盛りをしているのは、僕達、女神レクトマリアの眷属神三人組。
これまで四人でつるんでたんだけど、アホ狼がイチ抜けしたので、三人組だ。くそー。
もう戻ってきても、仲間になんか入れてやらないんだからな。
というか、戻ってくるなよ! 幸せになれ! くそー。
まあ、これからも仕事で組むことはあるんだけどね。
「番……」
重低音の声で唸っているのは、黒獅子のレオン。
ガタイがでかくて、強面で無口。手入れをしていないボサボサの黒髪も相まって、初対面だとほぼ確実に恐れられるのだが、根は優しくて穏やかだ。
僕が女だったら、こういう男を番にしたいと思うくらい良いやつなのだけど……、男に好かれる男は、だいたい女にもてないよな。
「怪我をした時に手当てをしてくれたのが、ふたりの馴れ初めとか……。ということは、私も怪我をすれば良いのでしょうか? でも、この最強の私が怪我をするような隙など、どうやって作れば……」
頭の良さそうな顔で、阿呆なことを考えているこいつは、白虎のティグリス。
さらさらの白髪に、ひと筋の黒髪。普段は冷静な美形に見えるけど、戦いになると一番凶暴で、おっかない。
「ねぇねぇ、どんな番が良いと思う? 理想の番像は?」
しけた酒盛りをなんとか盛りあげようと頑張る僕は、金狐のルナール。
眷属神の中では最年少。女性に声をかける時は可愛い系を意識してたんだけど、ヴォルフがもてるくらいなら、路線を変えたほうがいいんだろうか。
ぶっきらぼうな脳筋……、いや、駄目だ。僕の美意識が許さない。
「……理想、か」
「僕の理想はねぇ……初々しくて、僕だけを愛してくれて、脱いだら凄い、運命の番!」
「筋肉か?」
「違う!! 大胸筋じゃなくて、おっぱい!」
レオンの天然ボケにすかさず突っこむ。
「魔獣を倒して家に帰ったら、優しく『お帰りなさい』をしてくれる番が良いですね。魔獣臭いとか罵らずに、あたたかく出迎えてくれる番が……うぅぅ」
滂沱の涙を流すティグリス。
あんた……いったい何があったんだ。
「あーあ。なんで僕達、独り身なんだろうね。愛と性の女神の眷属神なのに。くそー」
僕がそうこぼした瞬間、その場の空気がピキンと固まった。三人の間に緊張が走る。
「しーっ! その名を口に出してはいけません!」
「出てくるぞ」
そうだった……!
地獄耳の女神に聞かれたら、何を言われるか。
「やばい……!!」
しばらく、口をつぐんで周囲をうかがっていたが、あいつが現れる気配は……ない。
…………ほっ。
「大丈夫そう、だよね?」
「馬鹿者が」
「今宵は、気楽な男同士の集まりです。水をさされないように気をつけましょう」
後日、「理想の番像なんか語ってるからダメなのよ~」と散々からかわれることになるとはつゆ知らず……。
男三人の虚しい酒盛りは、まだまだ続く――。




