5.あぁ! 困ります、女神様!!
目覚めたのは、もうお昼すぎだった。からりと晴れあがった明るい空が、窓の向こうに広がっている。
わたしは潜りこんでいた布団の隙間から、顔を出した。
この布団、なんだか温かくて、良い匂いがする。
「おなか空いた……」
「初夜の翌朝なのに、色気がないな」
笑いを含んだヴォルフの声がする。やけに近い。すぐ隣にいるような……。
んん、隣?
「おはよう」
ぱちりと目を開けると、そのまま口づけできそうなほど近くにヴォルフの形の良い唇があった。その唇が、驚く間もなく、わたしの唇にふれる。
「あ、んん」
口づけは、すぐに深くなった。
ヴォルフの裸の腕に抱えこまれる。温かい布団だと思ったものは、ヴォルフの腕だったんだ。
初夜の翌朝……。
そうだ、初夜!
わたしは昨日、ヴォルフに抱かれた。
ヴォルフの情熱を思い出して、わたしの熱も上がってきた気がした。
ああ、とけてしまいそう……。
「もっと、とかしてやる」
「え……?」
「とけてしまいそうなんだろ?」
わたし、口に出してたの!?
「え、え、あ……っ!?」
ヴォルフが毛布の中で下半身を絡ませてきて、いたずらっぽくささやく。
「もう一度、する?」
かあーっと顔が火照った。
「も、もう、ヴォルフ! あんなにしたじゃない」
「まだ足りない。いくらでもしたい」
「えぇ!?」
「忘れてるかもしれないけど、俺は愛と性の女神の眷属神だぜ? ご期待にはお応えしましょう」
気取った口調で言うけれど、その内容は……。
「ヴォルフったら。もうー!」
「ははは、わかってる。夜まで待つよ。日が暮れてからのほうが、女神の力が強いからな」
「女神様の……?」
にやにやしたヴォルフが、わたしの耳に低い声を吹きこんだ。
「愛と性の女神の、な」
「…………ヴォルフ!」
ヴォルフを押しのけて、寝台から飛びおりたいけど、体が痛くて動けない。
これって、筋肉痛? 閨の行為で筋肉痛になるなんて……恥ずかしい。
「うん? どうした?」
「なんでもない」
ヴォルフの脇に顔をうずめる。優しい手が頭を撫で、すうっと髪をとかしてくれる。
「………………」
――突然。
その手が、ピタッと止まった。
「……どうしたの?」
深々と息を吐くと、ヴォルフは急に寝台の上で起きあがり、わたしの体にしっかりと毛布を巻きつける。
えっと、もしかしたら、これは……。
「来たな」
部屋の真ん中に、白い閃光が走った。これまでにないくらい、まぶしい!
「おはよう、新婚さん! わたくしを呼ぶ声がしたので来ましたよ~」
「呼んでない!!」
現れたのは、やっぱり女神レクトマリアだった。
だけど、え……?
「白い玉、じゃない!?」
そこにいたのは……絶世の美女だった。
見たこともないほど神々しく美しい、妙齢の麗人。
まぶしく輝く金の髪は足もとまで届き、涼やかな水色の瞳は水面のように揺らめいて、神秘的な魅力に惹きこまれてしまいそう。
優雅な白い紗のドレスが、女性らしい体の線を強調している。清らかなのに、艶かしい。
「女神、様……?」
「うふふ、おはよう、マリアーナちゃん。あなたも色白で、綺麗よ?」
「えっ?」
上半身を起こした瞬間にずり落ちた毛布を、ヴォルフがぶつぶつ文句を言いながら、再びわたしに巻きつけた。
「なんで、こんな時に来るんだ。もう一回抱けたかもしれないのに」
「あらあら、絶倫ねぇ。さすがわたくしの眷属」
「……で? 今度はなんの用だ」
女神様は、うふふと可愛らしく首を傾げると、内緒話をするように口もとに手をあててささやいた。
「どうしてわたくしが、この姿でここにいると思って? 水晶の幻影ではなく」
「…………」
ヴォルフは不機嫌そうに黙りこみ、一言も発しない。さすがに女神様に失礼な気がして、口を挟んでしまった。
「あの、どうしてですか?」
「ふふふふふ、マリアーナちゃん、今、わたくしから圧を感じる?」
「圧?」
「そう。息苦しいような、押し潰されるような圧迫感。以前、滝の洞窟で会った時、苦しくなかった?」
そう言えば、滝の裏側にあった洞窟で、最初に白い球体の姿の女神様を見た時、重いものに潰されそうな息苦しさがあった。
「でしょう? でも、今は感じない」
「確かに、何も……」
「愛の力ね!」
「え……?」
わけがわからず困惑するわたしに、女神様はにっこりと微笑んだ。
「マリアーナちゃんの体の奥の奥まで、ヴォルフの神力が染みこんでいるのがわかるわ。ええ、それはもう濃ゆく」
「濃ゆ、く……」
恥ずかしさで爆発するかと思った!
筋肉痛の恥ずかしさなんて忘れてしまうほど、恥ずかしい。
「それでね、この湖、大神域にしちゃったの! これで、わたくしも神力を抑えずに、ここにいられる。いつでも遊びに来られるわよ!」
ほめてほめてと言わんばかりに、にこにこする女神様。
ヴォルフがあきらめたようにため息を吐き、首を振った。わたしの腰を抱き、頬に口づける。
「少しはこっちの話も聞いてほしいものだが……。まぁ、神域になれば、魔獣は入れなくなるし、気候も安定する。天変地異も起こらない。マリアーナも安心して暮らせるだろう」
「ヴォルフと初めて逢った、神殿の森みたいな?」
「ああ。だが、ここは女神の直轄地のようなものになった。あれよりもずっと守りが堅い」
女神様に視線を移すと、わくわくと期待に満ちた目でわたしを見つめている。
「女神様、ありがとうございます。その……うれしいです。これから、この島もいろいろ整えていこうと思っているので、また息抜きに来てくださいね」
「可愛い子ねー!」と言いながら、飛びついてこようとした女神様を、ヴォルフが片手で止める。
「さわるな。マリアーナは俺のだ」
「まあ! アツアツね~」
「新婚だからな」
しゃあしゃあと照れる様子もなく、ヴォルフが言う。
「あなたは可愛くないわねぇ! あっ、そうそう、そう言えば、マリアーナちゃんに紹介しておくわね。わたくしの眷属神達」
紹介?
眷属神……達?
「ちょっと待て! 待て待て! 着替えてからだ!!」
ヴォルフが慌ててわたしを布団の中に押しこんで、わたしをかばうように立ちあがった。
「ヴォルフ! ヴォルフ、見えてる!!」
ヴォルフは、下半身まで全裸だった……。
「あらまあ、ご立派」
女神様の呑気な声が、爽やかな風に流れていった。
それにしても、眷属神達って? 眷属神はヴォルフだけじゃなかったの?
次回「森の木陰の結婚式」。
ヴォルフのおかしな仲間達が登場します~。
眷属神の同僚も、もっふもふです。
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