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【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権 ~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~  作者: 月夜野繭
第三章 本物の聖女を探せ!

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5.王都への帰還



 近くの街に待機していた馬車に十日以上揺られ、ようやく到着した王都は、以前と変わらず人々でにぎわっていた。聖女不在の影響が、それほど出ていないようでほっと息を吐く。

 初めて王都に来た時と同じように、大神殿で国王陛下とはお別れだ。


「今度こそ儀式が滞りなくすみ、無事あなたという聖女をこの国に戴けることを祈っている」

 

 やはりあの時のように、陛下はわたしの手の甲に口づけた。

 しかし、以前とは違って続きがあった。

 陛下はわたしの二の腕を軽く掴み、耳もとに唇を寄せ、甘い蜜を滴らせるような低い声でささやく。


「我が未来の妻、聖女マリアーナ……、早くあなたを抱きたい」


 背筋にゾクッと痺れが走った。

 一瞬不快に感じたが、そのおしりがむずむずする気持ち悪さは、なぜかヴォルフに教えられたときめきにも似ていて、戸惑いが胸を占めた。






 * * * * *






 わたしは神殿長とともに、数か月前には何度も通った通路を、聖女の住まいである聖宮へと向かった。

 聖女継承の儀の準備が整うまで、しきたり通り聖宮で待つことになっている。


「あの、神殿長様、モーリーンは聖宮にいるのではないのですか……?」

「マリアーナ様、彼女は現在、王宮に呼ばれております。視察から戻った国王陛下と面会するご予定で」


 視察……。

 聖女を探す旅は公にはされていないと聞いた。

 そうか、視察ということになっていたのか。


「わたしはモーリーンのふりをしていればよいのでしょうか」

「いえ、神官達には真実を告げてもよいと、陛下からお許しを得ております。マリアーナ様は何も心配される必要はございませんよ」


 高齢の神殿長は疲れているだろうに、穏やかに微笑んだ。


「マリアーナ様こそが、女神レクトマリアに選ばれた、まことの聖女なのです。聖宮を我が家だと思ってお寛ぎください」


 大神殿の最奥にある聖女の館に着くと、女性神官達が出迎えのためにずらりと並んでいた。


「聖女様、お帰りなさいませ」

「お早いお帰りでしたが、何かございましたでしょうか」


 やや強ばった面持ちの女性神官が、緊張した口調で問いかける。


「いえ、その……」


 もしかして、モーリーンと間違われているのだろうか。

 ちらりと横を見ると、神殿長がうなずいてくれた。


「皆、重要な話がある。聖宮を担当する者を全員広間に集めなさい」






「他の神官にもいずれわかることだが、聖女様のお世話をする皆には先に話しておきましょう」


 神殿長から直々に、女性神官達に説明があった。


 わたしとモーリーンが双子の姉妹であること。

 先日の聖女継承の儀で、モーリーンが聖なる水晶を光らせることができず、聖女として認められなかったこと。

 そして、聖なる水晶の導きで、真の聖女がモーリーンの姉、わたしマリアーナであると判明したこと。


「双子の聖女様……」


 二十人以上いるだろうか。

 聖宮の広間に集まった女性神官達がざわめいた。


「……まさか聖女様が」

「やっぱり……」


 途切れ途切れに小さなささやきが聞こえてくる。

 ある程度、怪しまれるのはしょうがない。わたし自身でさえ、自分が本物の聖女だなんて未だに実感できないのだから。

 前にわたしの聖女教育を担ってくれていた女性神官――ジャネリーさんが、ためらいながら声を上げた。


「もしや、最初に聖女様として大神殿にいらしたのは、マリアーナ様なのでしょうか」

「え?」

「聖なる水晶が燃えあがり、ひびわれたという、一度目の聖女継承の儀のしばらくあとから、聖女様がお変わりになられたように思っていたのです」

「それは……あの」


 答えてよいものなのかどうかわからず、迷ってしまう。

 まごまごしていると、ジャネリーさんはひとり納得したようだった。


「差し障りのあることでしたら、お答えは不要でございます。マリアーナ様、わたくし達はマリアーナ様を心から歓迎いたします。改めてよろしくお願い申し上げます」


 彼女は両手を胸の前で組み、わたしの足もとにひざまずいた。騎士のように片膝を付くのではなく、両膝を付く。

 その場にいる全員が、同じ姿勢を取って、深く頭を下げた。


「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。あの、皆さん、もう普通にしてください」

「マリアーナ様、またお会いできてうれしゅうございます」

「お帰りなさいませ」


 顔を上げた女性神官達が口々に言う。みんなが、予想していたよりもずっと明るい表情なのがうれしかった。






 * * * * *






 モーリーンが聖宮に戻ってきたのは、日が落ち暗くなってからだった。


「モーリーン様!」

「どうかお待ちくださいませ!」


 女性神官達は、入ってきたモーリーンを止めようとしているようだ。

 叫び声が廊下から扉越しに響き、徐々に近づいてくる。


「何よ、なぜあたしが聖宮に入っちゃいけないのよ!?」


 バタンと大きな音を立てて、聖女の部屋の扉が開いた。


「…………」


 わたしを見たモーリーンは、目を見開いて立ち尽くした。


「……マリアーナ!?」





次回「双子姉妹の数奇な運命」。


苦しい状況が続きますが、必ずハッピーエンドになりますので!

頑張るマリアーナ(と作者……)を応援していただけるとありがたいです~!!

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