39話 諦めない気持ち
どうすればよかったのだろうか?
俺はただもう一度ミナの手に触れ顔を見たかった。
顔を会わせて話がしたかった。
二人で普通に暮らしたかった。
ただそれだけだった。
それなのに........
何でこんな事に........
ユウキはミナの顔を一目見るとその場で頭を抱え伏せる
どうしてだ。こんなはずではなかった。
助けて。せめてミナだけでも。
「ミディールさんこの装置は同じものは他には存在しないのかい?」
理人はそう言うとユウキの背中をポン!叩く
「二人の寿命はたしかに現段階では1週間しかない。だけどミナちゃんの身体を普通の状態に維持することでその寿命を普通の人くらいには伸ばすことが出来るかもしれないよ」
「どういう事だ?」
理人は今回、調査しに行っていた研究施設の中にあった機材などの説明をする。
理人と隆太が調べた施設の中は大量の食糧だけでなく様々なコンピューターや機材が無傷なまま放置されていた。その中には回復処理を施すこの装置に似たようなものもあったのだ。
「たしかに二人同時に回復処置を施せば理論上では普通に生活できる事はできるかもしれない。だけどどうやってここまであのデカい装置をここまでもってくるの?」
頼みの綱の転送装置は完全にエネルギー切れだ。再び使用するには数時間の重点が必要だ。そもそもあれだけでかい物を転送するのには相当なエネルギーが必要となる。必要なエネルギーを考えると往復2日分のエネルギーが必要だ。そんな時間はもう残されていない
「二人の残りの寿命は一週間は確実に保証出来るのかい?ミディールさん」
「それに関してだけど少し工夫すればあと3日ぐらいは伸ばすことができるかもしれないわ」
この時ミディールはとんでもないことを言い出し理人たちを困惑させる事となる。
「いまミナちゃんが入っているこの装置にユウキ君も入ってもらい二人同時にこの装置で回復処置を施せばタイムリミットを伸ばせるわ。」
「だけど元々この装置はそんな風に出来るように作られてはいない。理論上エネルギーの消費率も上がってしまうからどうしても回復処置の効率も悪くなってしまうからあくまでタイムリミットを伸ばすぐらいしかできない」
「一週間(7日)+3日間これが本当に限界」
「マジすかそんな物理的な方法でどうにかなるもんなんすか?」
隆太は半分呆れた表情をみせる。
「しょ!!食事は!!す!水分補給は!!と..といれ...」
言いたいことを途中で止めてしまった美亜。
「最初の二つは生命維持システムが何とかしてくれるけど最後の方はどうにもならないからいちいち装置から出てもらうしかないわね...」
「俺と理人で装置を取りに行くとしてもそんなに余裕ないじゃないすか大体あの施設にいくまで前回片道3日もかかったんすよしかも今は前回よりも天候が悪化している」
「ちょっと待ってくれ今回はそんなに時間をかからなくて済むかもしれない。」
「どういうことだ?」
理人の話によると。あの研究所に放置されていた機材を回収するために市長に頼んで車を借りる予定になっていたのだ。転移装置では爆大なエネルギーが必要なため効率が悪いためこれが最善な手段なため予め理人は市長に手配していたのだ。
「いま市長にこの現状を話したらいまから車をこっちに走らせて来てくれるらしい街に灯をつけてくれたお礼だってさ」
「んじゃ今回は車で吹っ飛ばせば何とかなりそうじゃないか」
「俺たちで何とかすから絶対あきらめたらだめだ。妹と普通に暮らしたいんだろ?」
理人はそう言うとユウキの胸に拳をポンと二回ほどあで笑顔を見せた。
「あ...ありがとう」
ユウキは大粒のながしそのばで泣き崩れた。
「兄ちゃん念のため数日分の食糧やら準備しとこうぜ」
理人と隆太は早速準備に取り掛かり始める。
「さあ、そういう事だからあんたは装置に入りなさい。少し狭いけど大丈夫ね?」
ミディールはユウキに笑顔を見せる。ユウキは彼女の笑顔を見るとやっと心に余裕ができはじめた。
「私はねあの装置を使おうとする人たちが心から幸せになれるようにと心から願て開発してきた。だけどその願いは実現できなかった。」
「失敗したと思ってた。だけどそれでもあなたは求めてくれた。だから私はこの装置を開発設計した者として最後まで責任を通すわ」
「あなたはミナちゃんにたいする思いは決して間違ってはいないわだからその気持ちをこれからもけさないで頂戴。」
ミディールは優しくユウキの両手を握る
「なぜ僕たちにそこまで.....」
「私ね家族を事故で無くしているの。夫と娘の二人を、だからこの装置を作ろうとした。あなたと同じでもう一度二人に顔を会わせて手で触れて...もう一度。やり直したかった。」
「失敗しちゃったけどね。娘は亡くなった当時は12歳だった。ミナちゃんと同じ位かな?」
ミディールはユウキを回復装置に入れた後もユウキに話し続けた。
「私はあの子には母親らしいことはとてもしてあげる事は出来なかっただけどあの子が生きていた証はちゃんと残っていると思っている。それが私なのかな?あの子の生きていた思い出はちゃんと私の中で生きているから「記憶としてね」 」
「ホムンクルス生体は記憶を元に姿かたちを構築するとあの本には書いてありました。だから......なんですか?」
「それもそうだけどね。研究者としてひとつ私は致命的な失敗をしてしまった。それがあの装置の失敗してしまった原因」
「それは?.....」
「私は人の記憶というものに想いが強ければ心がこもっていればきっと魂すら形にすら出来ると思っていた。それがそもそもの間違いだった。」
「あなたはずっと思い続けて来たんですか?娘さんの事を」
「死というものがなぜ辛くて悲しいか理解できる?」
「二度とその人に会えなくなるから...もう話す事も出来ないから...顔を会わすこともできない」
「そうねだけどもっと本質的な現実的な意味合いがある」
「それは?....」
「死んだ人はその時点で歳をとる事もなくそのまま時間が止まる。生きている人は時間が動きつづけ死んだ人と時間が離れ歳を取っていく。それが時間を追うごとに積み重ねていく事で人は肌で実感する。それを積み重ねていく事でより重みを感じていく。それが辛くて悲しいことだという事がより重みを実感させていく」
「僕はそれが耐え切れなかったから....」
「わかってるわだから。そのきもちをけして忘れずその子に愛情を捧げてあげて」
ミディールはどうしてもこの二人には幸せになってほしかった。自分たちのようになってほしくなかった。
「あなたの想いがきっとその子の心にも届くはずだわ。」