34.5話 遺された想いの鎮魂歌
神奈川県綾瀬市。何もない地たが自然あふれる何故か懐かしさを感じる土地である。
彼らが住んでいた場所でもある。私と新田は彼らの遺品を整理するため理人の住んでいた家に来ていた。
彼、理人さんの死後、彼の遺品の整理を本人の依頼から頼まれていた。
「いいのか?本当に彼の遺品の整理は俺がやるから自分の身の回りの整理をした方が良かったんじゃないのか?」
「彼からの依頼だからね。仕方がないよ」
二人は荷物をダンボールに入れていく。
新田は一つの写真立てを目にして手にする。
「もしかして、この子が?」
「そうだ理人さんの妹さんだよ」
新田は彼女の写真を見て複雑な気持ちになって来た。
これは......
ほとんどが妹に関わる持ち物ではないか.....
彼は......彼女との再会のためにどれだけの苦悩と苦しみを味わったのだろうか?
新田は理人と美香のツーショットの写真を見つけた。
写真の裏にはこう書いてある。2011年3月10
「この写真は美香ちゃんがグロウベルグシステムを適用する前日に取ったものだろうね」
綺麗な装飾がされた写真立てに入れられている。余程大切にしていたのであろうか?
色違いのマグカップが二つ。色違いのゲーム機PSPが二つ。さらに色違いの箸が2セット。どれも大切にほかんされていた。どれもこれもが2つにセットされ色違いの者ばかりである。多分二人が一緒に暮らしていた時に使用していたものであろうか?
箪笥の奥から綺麗な装飾が施された大きな箱が置いてあった。甘夏目はその箱を開けようとするが手が震えて開ける事が出来ない。
「もういい。俺が開ける」
そう言うと新田はゆっくりと箱を開けていく
綺麗な白い装飾が施されたドレスが入っていた。間違いなく結婚式に着る品物だ
新田はドレスと一緒に小さな箱が置いてある事に気づきその中を確認する。その中には指輪が二つ入っていた。
小さい方の指輪の裏側には小さい字でこう書いてある。『妹へ永遠の愛と共に人生のその最後まで共に生きる事を誓う』
新田は「はぁー」と大きく息を吸った後腰が抜けてその場に倒れこむ
その後新田は泣き崩れてしまう。
「彼の顔も知らない君が何でそんなに泣くんだい」
「だってよ....彼の苦しみを考えるとよぉ....本当に愛してたんだな...妹の事」
「彼らの関係は知っていたけど自分もこんなものを見てしまってはね...さすがにショックだよ」
彼はちゃんと妹に会えただろうか?二人はいま幸せだろうか?新田の頭の中はごちゃごちゃである。
「もうすぐ、ある二人がここに来る。彼らの遺品はその人達に渡す。これで依頼は完了だ」
「いったい誰なんだ?」
「彼の元妻にあたる人と娘さんだ」
「結婚していたのか?こんなに愛していたのに」
「彼の心情というかどんな気持ちだったかはわからないけど美香ちゃんが亡くなった後に結婚したらしいけど娘さんが出来た後に離婚したらしい」
彼はいったいどんな心境でどんな考えで結婚して子供まで作ったのであろうか?でもこれだけはわかる凄く辛かったんだろうなと
その後、理人の元妻と娘がやってきた。
まだ荷物が整理しきれていなかったため二人も手伝う事になったのだが彼らに重苦しい雰囲気が漂っていた。
無理もない離婚の原因は結婚する前にすでに亡くなっていた妹なのだから
元妻と娘は不機嫌そうな態度をとりながら荷物をまとめている。
「私はこの女に負けていたのね」
彼女はそう言うと箱に入っているドレスを手に取りハサミで破ろうとする
「おい!!アンタなにしようとしてんだ!!!!」
新田は彼女を抑え止めに入る
「はなせ!!!!はなせ!!こんなもの!!」
「やめろっていってんだぁぁぁぁ!!」
新田は大きな声で怒鳴りつく
「私は私たちはこの女のせいで不幸になった。あの人は生きている私達よりもすでに死んでいる妹に走った生きている私達よりも!!」
「あんたたちの事は可哀そうだと思うがやろうとした行為は許せないねこれは彼の遺品でもあり妹さんとの思い出の品だ」
「妹を愛している?それで私たちは棄てられた。私たちが不幸になったのは全部、こいつのせいよ!!!」
「気の毒だと思うけど彼の苦しみをわからなくはないのか?一時でも彼と人生を共にした身として」
「妻や娘より実の妹を優先された。それがどういう事かわかるの?」
新田は彼女の胸倉をつかみギロ!と睨みつく
「何十年も心の底から愛する人と離ればなれになるその辛さがあんたに理解できるか?妹だからなんだ?愛しちゃいけないのか?」
新田は彼女をにらみ続ける
「そのドレスから手を離せそれは彼が妹のために送るはずだったものだ。彼らの遺品は俺たちが引き受けるあんたたちの手は借りない」
その後元妻と娘は何も言わずにその場から後にしていった。
「すまない新田...本来ならその役目は彼の顔見知りだった私の役目だったはずだ...」
「構わないさ、心のままに動いたまでだよ」
「しかし彼らの遺品は今後どうすればいいのやら...」
「近くに小さな神社があったはずだそこで事情を話してお滝上げしてくれないか話してみよう」
その後二人は理人の自宅近くにあった神社に足を運び神主に相談するのだが....。
神主は二人の写真を見てビックリした。彼が若い頃教師として勤めていたいたのだが偶然にも理人の担任であった。妹の美香とも顔見知りであったことが彼の口から話された。
新田と甘夏目は事の成り行きを彼に説明すとその重い口調で理人と美香について話し出す。
「わしも二人の関係は知っていた...なにせ二人は両親もとうに亡く祖母さんも亡くなってしまったからのう」
「二人はこんな苦労して本当に幸せだったのでしょうか?...」
新田は涙を堪え両手をぎゅっ!とにぎりしめる
「そのドレスはね...わしの知り合いに頼んで拵えてもらったもんなんだよ。その人は彼らのクラスメイトでもあった。」
新田と甘夏目はただ黙って神主の話を聞いている
「その指輪はね元々は祖母さんと祖父さんの物だったんだよ」
「わしは思うんだけどね人のつながりは見た目だけの形で決められるものではないと思うんだよ。二人は互いに認め合い納得したからこそそういう決断をするしかなかったと思うんだよ」
新田は不意にホロっと涙が流れた
「生と死という壁がありながら二人は繋がり続けていた。そんな二人が本当に不幸だったといえるのかね?」
新田はもう涙を堪える事が出来なかった。
「ほんにねぇ...二人の晴れ姿がみたかったよぉ..」
「俺も...見たかったです...本当に...」




