1話 もうすぐ会えるよ
人類の故郷、地球、「マザーエルサレム」その誕生から長い年月が過ぎ人類はどれだけの時間がたったのか誰も知る者はいなかった。
人の人生は100年が基本と言われるようになり80歳が還暦となっていた。そして還暦を過ぎたものは脳に電脳世界につなげ仮想世界にダイブすることで新たな人生を始めるもの多かった。
しかし、ダイブすれば脳は焼き切れ二度と現実には戻っては来れない。50歳を過ぎた阿久津理人は肺にガンを患い、余命3か月を言い渡されている。
終末医療プログラムとして、脳に直接電脳世界へと繋げ、仮想世界にダイブする行為として認められていたため、彼はそのプログラムを受ける事で新しい人生を始めようとしていた。
「先生そろそろですか?」
理人はそういうと、彼の横たわるベッドの横にいた白衣の男性は作業の手を止め答える。
「もうそろそろですよ」
そう言うと、ヘルメット型のVR器具を彼に被せた。
「名前などの設定は、ダイブした後にすることになります。絶対に変な名前は付けられないようになっているので安心してくださいね」
少しおどけて見せた白衣の男は、どこか寂しげに穏やかに笑い掛けながらも、セッティングを続ける。理人の主治医である彼はパソコンを操作し、理人の仮想世界へのダイブする権限を受理し終え、最後の入力が終わったのか、ふと顔を理人に向けやはり、寂しそうな笑顔のまま理人に尋ねる。
「理人さんが行こうとしている世界は、一体どんな場所なんですか?」
「そうだな? 今流行りの異世界転生物の世界はちょっといやかな? できるなら普通に、そう、普通の人生をやり直したいと思っている。そもそも私が行きたい世界は一つだけなんだ。出来るのですよね?」
少しはにかみながら、理人は向かう先の世界に希望を胸に答え、最後に不安を口にした。
答えたあと理人は、ベッドの上で上体を起こし、病室の窓から外を見下ろす。これが最後に見る、この世界からの景色なのだと言い聞かせながら。
理人の不安を読んだのか、少し先程よりも明るい口調で主治医の男はその質問に答える。
「出来ますよ。このVR技術なら。そのための終末医療であり人のための救いなのですから。」
答えた後男性は、理人がつけているVRの器具にコンセントのような線を付けていくのを見ながら理人は、最後のときが近いのだな、と長い闘病生活の終わりを感じていた。
「彼女が...妹が、たどり着いたであろう世界に、私はどうしても行きたいのだ、どうかよろしく頼む」
理人は男性にそういうと、軽く笑みを見せ頭を下げる。
「彼女を送り出したときのデーターが残っています。いわゆる座標というものです。この座標にあわせ、理人さんをダイブさせます。これできっと妹さんに会えるはずです。」
「ありがとう先生」
「ただし私ができるのは、あなたを妹さんが行ったであろう世界に送り出す事までしかできません『あちら側の世界』ついたら、あとはあなた自身で妹さんを探すしかありません」
そういうと男性はパソコンとVR器具を線で繋げる。理人はいよいよこの世界から旅立つ時が来た。
「理人さん...お別れです出来るならあなたの病気...直したかったです。」
悔しげな男性の目にはうすらと涙を浮かべているようである。
一つ大きく息を吸い、理人は消毒液の臭いが混ざる、この世界最後の香りを味わい、笑顔で告げる。
「仕方がないさ、さあやってくれ」
『フルダイブ了承確認しました』
中性的な音声が頭のなかに響いて、彼は意識を失った。
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