16話 心月
「ふう......」
理人は屋敷にある大浴場で湯につかっている。
めちゃくちゃでかい風呂場だ。
立派な銅像みたいなものからお湯が出てきて浴室に湯が入る構造となっている。
「はぁ....」
いい湯だ...これは快適だ...
それにしてもほんとよくできた浴場だ。
前の人生ではこんな快適な暮らしマジで想像できなかった。
...........
それにしてもどうしたらいいもんやら...
このままでは学校の生徒のほとんどが皆飢え死にだ。
俺はこの世界に転移してきてまだ日が浅いけど、だけどみんないいやつらだ。
誰も苦しんでほしくない....
「俺たちには助けてもらう資格なんて無いんだぜ」
経った今、隆太が言っていた事が理人の脳裏に浮かんだ
何が資格なんだ?
お前は何も悪いことしていない。
誰も悪いことなんてしてない。
くそ!!転移する時期がズレさえしなければこんな事にはならなかった。
少なくとも美香が無事でいてくれれば少しは話しが違ったかもしれない。
浴場を後にした理人はその後、美亜といつも通り晩食の時間にする。
ちなみに今日はカレーだ。学校でもらったリンゴを使った甘いカレーである。
何でもないこんなただの夕食の時間ですら俺にとっては幸せに思える時間である。
俺は本当に彼女を美亜が大好きなんだ。
「兄ちゃんよぉ、いきなりは無理だと思うけどよちゃんと現実受け止めようぜ」
そういうと隆太は理人の背中を手にする
「さっきも言ったが美香は生きてる、皆そう信じてるからさ」
「兄ちゃんがそれじゃ駄目だぜ」
つぅ....-----。
俺はこんな時に何を考えてーーーーーーーー。
かちーん。
手にしていたスプーンが手のひらから落ちてしまった。
「大丈夫、すぐ会えるさ」
そう言うと理人は美香の手を握る
「私はお兄ちゃんと同じ時を過ごす」
「そのためにほんの少しのお別れです」
あ...あ...ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
違う俺は.....!!
「理人さん....?理人さんしっかり!!」
理人が急に精神的に錯乱状態になったため美亜は理人に駆け寄り落ち着かせようと声をかけ続けている
明けない夜明けなど存在するはずがないのだから。
大切なのは心、そして退かぬ(ひかぬ)想いだ。
婆ちゃん俺には難しいよ。
無理だよ、俺たちだけ幸福に過ごしていくなんて不公平だよそんなの。
「大丈夫?」
美亜は理人の手をにぎり決して離さない。
彼女は絶対に理人の手を離さない。彼を守ろうとする強い気持ちが感じられた。
「俺は....」
理人は美亜に胸の打ちどころのすべてを話した。
「私は。」
「理人さんの好きにしてもいいと思う。」
理人は美亜を抱きしめけして離さない。
彼女の心だけが今の彼にとって唯一の心の拠り所となっていた。
ダメだろ俺....美亜にすがっちゃダメだろ。
これじゃ俺は美亜を美香の代わりにしているようなもんだ。
ああ....そうか俺は.....
兄でありながら。妹をあいつの事を.............
はは........そりゃそうだよな....
なぜ気づかなかったんだ俺は、でなきゃ35年も我慢は出来なかった。
恋と言うものも知らなかった。
少なくとも美亜と出会うまでは。
彼女と出会わなければ、俺自身の本音も気づかなかった。
俺の初恋は確かに美亜だ。気づいたのは美亜が先だから。
だけど________。
.
...........。
実際に理人が感じる想いのそれは他人には到底理解できないものだ。彼らの関係は兄と妹なのだから。
しかしこれだけははっきりと言える。
人の絆とは恋愛感情が最高なものではない。
彼らにあったつながりは恋愛感情以上のものだとするならば....。
事実、理人と美香の絆は他人には到底理解できないものがあったと思われる。
兄に一度は自分の死に目を見させてまでも美香は兄とまた同じ人生を歩むことを節に願い、こちらに転 移してきた。理人は一度は美香の死に目に会い心に傷を負った。そして再び美香に再会するために35年間も我慢した。
そうそれはもう家族愛や恋愛感情など等に超えているのである。
「私はここにいる」
「え?」
「私はどこにも行かない」
美亜は人形みたいなちっちゃな体で力いっぱい抱きしめる
「私は消えない」
「あなたを絶対に悲しませない」
君の気持ちはすごく嬉しいよ。
でもさ俺はこのままじゃ君を傷づける。
どうしたらいいんだ?
「俺は?どうしたらいい?...」
「好きにしてもいいと思います」
「あなたのその苦しみは人として間違ってはいないという証」
「私は絶対にあなたを裏切らない」
本当にいいのか?俺はそれで
どの道俺は美亜を失うわけにはいかない。
彼女を失いたくはないんだ。
だら俺は進むしかなんだ。
しかたないだろ?もう失いたくないんだから。
「落ち着いたら君に話したいことがある」
「ちゃんとその時ははなしをきいてほしい」
理人は自分の気持ちに整理がついたときに美亜に告白しようと心に誓った。
「大丈夫、私はどこにもいきませんよ」
彼女はいつもの様に笑顔を理人に見せ安心させた。
真っ白で純白で純粋な彼女の笑顔とその心....俺は確かに彼女が好きだ。
だから、彼女を裏切りたくない