101話 心配と期待そして前途多難
理人は腕を組んで考え込む。
「俺の世界の婆ちゃんなら絶対に何か準備してるはずだ。特にこういう危機的状況に対してはな」
「おばあちゃんがよく話してました。"万が一のために常に保険をかけておくものよ"って」
「あー、そっちのほうのあの人も同じこと言ってたのどこの世界のあの人もまったくかわらんね。ほんと」
隆太は顎に手を当てて考える
「で、なんでもいいから婆さんの痕跡はないのか?例えば研究ノートや残したメッセージとか」
美香は静かに首を振る。
「おばあちゃんは几帳面な性格だから......」
ほーんと!!!どの世界でもあの人は全く変わりない同じ人だ!!!本当に!!!
「でも.....」
彼女は服の内ポケットから古いUSBメモリを取り出した。
「これだけはいつも肌身離さず持っていました。パスワードがかかっていて中身は見られないんだど...」
「あるやないかい!!」
理人と隆太が同時に美香に向かってツッコミを入れる。まるで漫才師のような息の合った反応だ。
「えっ?」
「なぜそれを先に言わないんだよ!」
理人は少し怒ったように言う。
美香は慌ててUSBメモリを掲げた。
「ごめんなさい、忘れてたわけじゃなくて……」
言い訳しながら恥ずかしそうに頬を赤らめた。
理人の頭の中でこれまでの出来事が鮮明に蘇った。
あれほど苦しかった雰囲気だったのにに今はこんなにも平和な雰囲気に包まれている。(目の前の現実とのギャップに思わず笑みがこぼれる。)
「とりあえずこいつの中身を解説しよう」
理人は冷静さを取り戻し提案した。
「そうだなこのデータには何か手掛かりがあるかもしれない」
「それにしても……不思議ですね.....みんなが知っている美香さんと今ここにいる美香さんは別世界線の美香さんで別人のようなものなのにほとんど変わりはないみたいだけど...」
「俺としてはとても嬉しい限りなんだけど」
隆太が相槌を打つ。
「まあでもいずれにせよこの世界で起きている現象についてもっと情報が必要だ」
「だな」
外では薄暗い光景が広がっている。雪がちらちらと舞い始めた
その背後で誰かが声を発した。
「ねえ理人さん……」
振り返るとそこには美亜が立っていた。真剣な眼差しで彼を見つめている。
美亜は美香のことが心配で仕方がないようである。
美亜の心配そうな視線が治療後の美香に向けられていた。確かに治療は成功し、一時的に容態は安定した。いくら容態が安定したとはいえ彼女は末期癌に侵されていて余命僅かもないことに変わりはないのだから。
「あの……おねいちゃんはこれからどうなるのでしょうか?」
美亜が小声で尋ねた。彼女の声には不安が滲んでいる。
理人は重々しく頷いた。
「残念ながら完全な治療は無理だ。でも回復システムで延命することはできる。少なくとも寿命をそのものを伸ばすことは可能なはずだ」
「でもそれじゃ……」
「わかってる」
理人は美香を見つめながら続けた。
「でも今はこちらの世界の婆ちゃんを探さなきゃ.....。あのUSBメモリに何か手がかりがあるかもしれない」
美香はゆっくりと立ち上がった。以前よりずっと安定した足取りで。彼女は窓際に立ち、雪が舞い落ちる外の景色を眺めた。
「私は何も言えない……」
美亜は唇を噛みしめながらうつむいた。
「おねいちゃんに最後の時間を大切に過ごしてほしい。もし可能なら、お母さんにに会わせてあげたいです」
「その方向で進もう」
理人が力強く言った。
「まずはUSBメモリの解読からだ」
理緒が小さな手を挙げる。
「でもあのUSBは超強固なパスワード設定されてるのぜ!普通の方法じゃ開けられないよ〜」
「いや」
理人は考え込みながら答えた。
「きっと婆ちゃんのことだ。何かヒントを残してるはずだ」
ミディールが眉間にしわを寄せる。
「しかし問題は時間がないということだ。美香ちゃんの状態を考えれば……」
「大丈夫」
美香本人が意外と強い口調で言った。治療後の彼女は確かな意志を感じさせた。
「みんなのおかけでかなり改善しました。もうしばらくはもつはず」
「ふぁっ!?」
「どうしたんだラピズ」
ラピズが操作するPCに「アクセス許可」の文字が輝いている。
「え?」
「へ?」
「ふぁっ!?」
全員が同時に間抜けな声を上げた
「いやいやいやいやっ!」
隆太がラピズの肩をつかんで揺さぶる。
「なんでそんな簡単にわかるんだよ!超厳重なセキュリティだったはずだろ!」
「だって……」
ラピズはキョトンとした顔で首をかしげる。
「おかあさんのパソコンでたまに遊んでた時に、こうやってパスワード変える場面見てたから~」(久しぶりに通常の口調)
「見てたからって……」
ミディールが額を押さえながら唸る。
「あの人(月見)どんな教育してるんだ……」
「で、パスワードは?」
隆太が慎重に尋ねる。
「美香理人」
「なんだってぇぇ!!!!(全員)」
「ん~、なんかこのファイルにヒントは『大切なのは家族の名前よ』て書いてあったのぜだから...」
ラピズは無邪気に答える。
「なんて単純な……」
ミナが呆れた表情で肩を落とす。
「最高レベルのセキュリティにそんな脆弱な」
ミディールが唖然とする。
「まぁ……」
理人は苦笑いしながら言った。
「 婆ちゃんらしいと言えばらしいけどな」
PCの画面にはラボの場所は藤沢にあると記されていた
「藤沢……」
理人は呟きながらマップを開いた。画面にはこの荒廃した世界での藤沢地区が表示される。かつての栄華を失った街並みが薄暗いグレーに染まって見えた。
「エアーダガールなら問題なくここまでいけるな」
........................
しかし
ぶひゅぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!!!!!(吹雪)
「なんじゃこりゃーー」
エアーダガールに乗って藤沢に向けて移動していた一行は思わず口を開けてしまった。
「これどうみてもブリザード級だよな?」
一同は眼前に広がる光景に戦慄を覚えた。
吹き荒れる雪と氷の嵐が全てを覆い尽くし道路は埋まり建物は氷漬けになり一部崩壊している。
「まさかここまでとは......」
ミディールが厳しい表情で空を見上げる。
「動力はこいつの動力は永久機関のようなものだガス欠になる恐れはないけれど...」
「旅団の人たちが徹底的に改造してくれたとはいえこのままではまずいかもしれないぞ」
隆太が拳でこめかみを叩きながら呟く。
「美香は大丈夫か?」
理人が隣の美香に目を向けると彼女は懸命にバランスを取ろうとしていた。治療で改善はしたものの体力的にはまだ限界に近い。
「これじゃ進めない……」
「風雪除けが必要だな」
ミディールは即座に対策案を提示する。
「今すぐにできること……」
「傘じゃダメだよね??」
ユウキの素朴な疑問にミディールが即座に否定する。
「今の雪と風の激しさで傘は折れるか飛ばされてしまうだろう」
「おいおい……冗談だろ?」
ポルコが操縦桿を握る指に力を込める。エアーダガールのモーター音がかすかな抵抗を示す中、猛吹雪はさらに勢いを増していた。
「美香!しっかり掴まってろ!」
理人の叫びがどかどかと音を立ててかき消される。
「前方500メートルに避難用シェルターらしきもの発見!!!」
ミディールがレーダーを指さす。電子音と共に表示された青いマーカーが唯一の希望だった。
「了解!最短ルートで行くぞ!」
ポルコがアクセルを踏み込むと同時に、美亜が美香を庇うように立ち上がる。
「おねいちゃん!私の後ろへ!」
エアーダガールが避難用シェルターらしきエリアめがけて入っていく
前途多難!!!果たして彼らはこの世界の那智を見つけられるのか?
苦難の道筋はまだまだ始まったばかりである




