アリバイつくります 1
池袋の本屋で、ファッション雑誌を眺めていた。店内は、BGMはないが、近くに居た客のイヤホンから漏れてくる音楽が聞こえてきていた。
空音が好きな曲だった。
その音に気をとられつつも一冊手に取り、レジまで行こうとした時、雑誌を持つ手に誰かがぶつかってきた。
「あっ、ゴメン。」
ぶつかってきた青年が謝ってきて、二人で同時に落ちた雑誌に手を伸ばした。
その瞬間に、青年に目を奪われた。
一目惚れだった。
「空音!」
私は呼ばれて振り返った。
そこには、本屋で出会った青年が立っていた。
本屋で出会った時に、空音が一目惚れしたのに、青年の方から友達になりたいと連絡先を教えてくれたのだ。
青年の名前は、亮。
そこから時々二人は会うようになった。
「空音はいつもここにくるの?」
「たまにね。」
二人は猫カフェに来ていた。
猫が好きだけど、空音のアパートはペット禁止だった。
だからたまに猫カフェに来て、気持ちを癒してもらっていた。
「僕も、空音の猫になりたいな。僕なら飼ってもらえるかな?」
空音は、びっくりしたが、亮はマイペースな性格なので、猫みたいではあった。
「いつかね。」
そう言って、はぐらかすように空音は返事をした。
「僕は本気で空音と暮らすことを考えているんだけどな。」
空音は、都内の病院で看護師として働いていた。
26歳で、仕事にも慣れて来た頃だったが、看護師とあり、シフトがバラバラで、なかなか友人とも遊ぶ時間がなかった。
しかし、亮とは平日の昼でも、気軽に会うことができたので、何回も会う回数が増えていった。
亮は、22歳の青年のだった。
まだあどけなさが残るが、どこか大人びたように落ち着いた雰囲気があった。
亮は、サービス業で働いていると教えてくれたが、具体的な事いつもははぐらかされて教えてもらえなかった。
平日は夕方から仕事に行くことが多く、仕事の電話やメールは1日を通してよくかかってくることが多かった。
土日は、1日中仕事に行く事が多いようだった。
明るめの茶髪に、整った目鼻立ち。
スマートな体型で背は175cmはあるだろうか。
優しい話し方で、いつもニコニコしていて、一緒に居て、どんどん好きになるばかりだった。
ただ、一緒に居ても、亮が自分を好きになるとは限らない。
なぜなら、空音が自分には縁が無いだろうと思ほど、美青年だったからだ。
季節は秋だった。
品川の水族館に空音と亮は来ていた。
室内で開催されるイルカショーに、見入った二人だった。
ショーが終わると周りのお客さんは次々と立ち上がり、ショーの会場からでていった。
しかし、空音と亮はベンチから立たず、そこに座っていた。
無言で、ショーの余韻に浸っていた。
しばらく、ショーの水槽を二人で何気なく見つめていたが、おもむろに亮が口を開いた。
「空音を好きになってしまいました。僕の恋人になってくれませんか?」
空音は、驚きそして、嬉しかった。
何度も二人でデートのように出かけたけど、二人の関係についてはっきりと聞けなかったので、亮にそういわれて素直に嬉しいばかりだった。