第90話【餓鬼の断壁と奈落への道行き】その6
バルクスの美体を間近で見た猿達は、呼吸を忘れる程の美しさに思わず息を呑み、敵である筈の岩猿でさえ萎縮した様に近づくと、頭を掻きむしりながら握手を求める。
それに答えるように力強く握り返すと、互いの健闘を祈るように熱い抱擁を交わし、猿達は惜しみ無い拍手を1人と1匹に送り、バルクスは固い絆を得た様に満足すると、大声で猿達に向かって、1段階成長出来た事への感謝を述べた。
『ありがとう君達――――何だ、身一つでもちゃんと気持ちが通じるし、互いに分かり合えるじゃないか!!』
互いに全力の一撃を出し切り、完敗した岩猿は同族の様に数秒もの間、上裸のバルクスを称えると、取り乱すこと無く静かに群れに帰っていった。
〝思いが通じた〟と言われれば聞こえが良いかもしれないが、単純に猿達は日々の狩猟に飽いており、数で圧倒すれば他愛ないと常時集団で行動して来たため潜在的に余裕があるだけなのだ。
強者をも狩猟する団体行動ならば、獲物からの返り討ちに遭い個体数が減ることは有れど、決して負ける事はないと自覚している。
何故ならば――――数百もいる荒くれ者を束ねる程の、強力で頼もしいボスが、餓鬼の断壁には居るからだ。
両者の間には友情にも似た雰囲気が漂い、互いに動けぬ状態が続く中、遠方で地鳴りと共に凄まじい轟音が響いたと感じた途端――――突如として上空からバルクスと猿達を分断する様に、無差別的かつ飛来する隕石の如く、足元の岩場を無惨に破壊しながら降ってきた。
飛散した事により砂煙で視界が悪い中、バルクスは瞬時に体を硬化させ体の正面で腕を交差させると、礫の様になった岩の破片を己の身一つで受け止め、降り注ぐ雨の様に打たれながら必死に耐え凌いだ。
【戦車大猿】=【危険度level-Ⅲ】
(体長4Mかつ二足歩行であり、両肩に装備されている口径150mm砲と、岩石すら粉々にする握力が最大の特徴であり、数百いる兵隊猿と幹部猿3匹を率いる絶対的な統率者である)




