表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつだってあなたが私を強くする  作者: 泥んことかげ
【第1部~出会いと約束】
90/111

第89話【餓鬼の断壁と奈落への道行きその5】


 先頭に立つ鏡猿の腹には、偉人と言われる巨匠の作品よりも、彫りが深い筋肉が映り込み、それを見ながら洗練されたポーズを、幾度となく繰り返すバルクスだが内心ビクビクしていた。


(多勢に無勢とは正にこの事だな……俺の筋肉(ボディ)だけでは、この愉快な猿軍団は倒せん。出来るだけ時間を稼ぐと同時にアイナさん達に知らさなければ!!)


 無数の猿達は一人の人間に――――否、《《たった一人の》》(オトコ)に夢中だった。


 波の如く押し寄せる群れが、我先にと見たいがために、仲間を手で押し退けたり、時には足で蹴り上げる者もいた。


 攻撃を仕掛ける者や、石を投げて邪魔をしたり、横槍を出す者は一匹も居らず、只々珍しい来客(ホモサピエンス)に対して指を咥えて見ており、多対一で闘えぬバルクスは、全身全霊を持って必死に己がすべき事を全うした。


 数分の披露会(パフォーマンス)が終わると、流石に疲弊したバルクスは、大粒の汗と共に片膝を着き理解した――――猿だと思って(あなど)っていた事を、今更ながら後悔していたのだ。


『この鋼のバルクスに片膝を着かせるとは――――ただの猿共ではないな!?』


 連続での《ポージング》に加え、沢山の猿達(ギャラリー)に慣れないバルクスは、いつの間にか筋肉が身震いし息も絶え絶えになる中、群の中から幹部の一角である〝岩猿〟が目の前に立ちはだかる。


 彫刻をも凌駕し、岩その物と言える程の(ボディー)を、勝利の雄叫びにも似た、歓喜の声を高らかに上げながら存分に見せつけてきた。


 そう――――まるで、『筋肉は、こうあるべきだ!!』と言わんばかりの立派な肉付きと、日々の食事から得られる限られた栄養分だけで、筋肉自慢さえ見惚れるほどの素晴らしい肉体だ。


 疲満身創痍で小刻みに震える足、無限に溢れでるかの様に流れ出る汗は、想像以上に身体全体を〝疲労〟と言う形で染み渡っており、バルクス自身、猿でなかったら友達になりたいとさえ思えてしまう程に美しかった。


 ――――だが、ここで負ける訳にはいかない……道場へ置いてきた仲間の熱い魂が、日々費やされる栄養素(エネルギー)達が、否――――己自身がそれを許さなかった。


 震える身体を〝武者震い〟に変換し、立ち上がると同時に目の前の岩猿(ライバル)に向け、会心かつ渾身の姿勢(いちげき)を放つ。


『食らえ無も無き猿よ……(オトコ)バルクス、執念の思いを乗せた魂の構えを――――〝(アイム)一番成(ナンバーワン)〟!!』


 顔はやや左斜めに落とし、右人差し指を天に向け勢い良く突き上げ、左手は後方に回す。只それだけであり、至ってシンプルでとても特殊な技法は感じられなかった。


 だが、今のバルクスにはそれで充分であり、アイナ三ヶ条の危険種と出会ったら逃げる事、分からぬ事は指図待てを堂々と破ってしまったが、魔力を使わず己が身一つで対等に戦うことが果たせ、それだけで今の心境は満たされた。


 この日幾多の偶然が重った事により、バルクスの上空だけが綺麗な円上に開け、優しく降り注ぐ陽の光は、一人の(オトコ)を称えるように辺りを照らした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ