第84話【旅立ちの珍道中編その6】
【協会内部通路】
連絡を受けて待っていた、老体と師匠は、老人らしからぬ速さで先頭を歩いている。
それを追うようにセリエを担ぐノーメン、緊張と不安で顔面蒼白のバルクスと、スッキリとした表情のアイナが後方へ続いていた。
広い協会内、一体どれだけ歩いたか定かではないが、しばらくすると師匠は後方を振り向く事なく、最後尾を歩くアイナに対し、厳しい言葉を投げ掛ける。
『これから晦冥の奈落へ行くのに、魔力の使用は控えるよう教えたじゃろ?生半可な気持ちで挑む場所ではないと、あれほど念を押したのにのぉ……』
『出過ぎた真似してごめんなさい……』と、先程までのしたり顔とは打って変わって、アイナの表情は悪戯がバレて、叱られた幼子の様になっていた。
((流石のアイナちゃんでも、リメイシャン師匠の前では、頭も上がらないか――――))
筋肉自慢の二人がそう思ったのも束の間、老体の護衛二人が特別な魔法で、加工されている頑丈な扉の前で、威圧感を与える仁王像の様に、左右へ分かれて立っていた。
老体と師匠が扉の前へ背を向けて立ち、残りの四人は、徒ならぬ存在感を放つ扉を、唖然とした表情で正面に立ち、固唾を呑んで見る形となった。
一本線の様な目を大きく開き、老体はこう言った。
『ちと歩いたが着いたぞ。この扉の向こうに――――《《晦冥の奈落》》への転移魔方陣がある。転移先は陸地だが、その先に何があるか分からんから、皆の者は心して挑む様に。』
老体からのありがたい言葉を聞いて、目的地へ着いたのを確認したセリエは、狸寝入りを止めると、ノーメンの背中から華麗に降り、扉の方へ歩きながら軽妙な口調で喋り出す。
『んで?――――誰から最初に行く?ノーメンの旦那とバルクスは傷が言えてないだろ?女性に先、行かすわけにもいかないから……この中で一番強い俺が先に乗り込むわ!!五分したら追い付いてこいよ?』
セリエの言葉を聞いて皆が納得し、先発が決まったかに見えた――――が、一人だけ気に入らない表情をする者が口を開いた。
『あら……今のは聞捨てならないわね。この私が《《貴方より劣っている》》ですって?冗談は存在だけにしてもらえないかしら?』
『あ゛んっ!?』とセリエが応戦しようとしたが、二人の間へ入るように師匠がそれを止めると、顔色を交互に見ながら言った。
『順番や強さって言うのは、誰が決めるものでもないのよ?誰が偉いだとか、誰が凄いたとか、そういう嫌な概念は捨てて、これから苦楽を共にする仲間なんだから、互いに尊重し合い譲歩してあげるのも優しさよ?』
それを聞いて数秒程の時が流れ、押し黙った両者だったが、先に歩み始めたのはセリエだった。
『《《三分》》だ。三分したら、着いてこいよ――――俺達、仲間だからな……』
いつも通りの悪戯顔を周囲へ振り撒くと、護衛二人により開かれた扉の中へと、柔らかな光りに包まれながら、その姿を消していった。




