第82話【旅立ちの珍道中編その4】
セリエが言いたいことを要約すると、協会にはいくつもの転移魔方陣があり、それぞれ別の都市や保護区域、特別危険区域付近に繋がっているらしい。
今回目指す【晦冥の奈落】の出入口は、深度が約16kmの海中のため、最寄りにある【深淵の渓谷】最奥部に位置する、【餓鬼の断壁】に魔方陣が敷かれている。
高危険区域の魔方陣は、協会でも厳重保管されており、協会特別発行の魔法通行手形がない限りは、通行が出来ない仕様となっている――――だが、今回は協会上層部に知り合いがいるアイナの頼みに、緊急特例を発動した事により、厳重警戒を緩和し通行が可能となっている。
バルクスは巨体ながら縮こまるような思いで、後ろ指を差されたような感覚に陥ると悲鳴にも似た、か細い声でアイナに助けを求めた。
『アイナさん、入り口からそうだったんですが、さっきから周りの視線が痛いんですけども……』
『そんな事でメソメソしてんじゃないわよ!!人様の視線何て気にしてたら、出来るものも失敗するわ!!』
勢い良く叱咤され、見るからに肩から落ち込むバルクスを、同じ体格のノーメンが優しく肩を叩き、無言で親指を立て励ましている。
握手を交えようと手を差し出すノーメンに、バルクスは鍛え上げた掌で力強く握り返すと、筋肉自慢の二人の男には、目視出来そうな程の熱く静かな友情が芽生えていた。
(気にすることはないさ、漢たるもの、ひたすらに前進あるのみさ!!)
マスク越しの眼差しからは、燃え滾るような闘志を垣間見えたが、実際の考えとは違うだろう。
己の筋肉で熱く語り合う漢二人を、冷やかな目で見るアイナ達は愚痴を溢し始める。
『筋肉バカと顔無し大木は、ほっときましょうか――――』
『おいおい!!ノーメンの旦那をバカにすんなよ?てか、アイナちゃんも毎日《《あんなの》》と修行とかしたりすんの?』
『《《アレ》》は実力だけならウチでもトップクラス何だけど、見た目を凌駕するほどのお馬鹿さんなの……』
それを聞いて互いに苦労をしているのが分かり、笑みを浮かべるセリエに対し、昨晩の事が煮え切らないアイナは、予備動作なしでビンタを繰り出すと、的確に左頬を捉え、勢い良く地面を転げ回るセリエが、両脇にある支柱に激突する音が、長い廊下に響いた。