第77話【誓いの前日編その14】
突然現れた鋼の豚に犬と猿の2匹は、驚きのあまり飛び跳ねながら強く抱き合っていたが、互いの顔を見るなり直ぐ様離れると、止まぬ喧嘩が再び幕を挙げる。
その光景を手の平でずっと見ていたミフィレンは、二匹に顔を近づけると、少し頬を膨らせて怒り始めた。
「犬さん!猿さん!いいかげんにして!!」
お椀型にした手をテーブルで割り三匹を降ろすと、頭の上で巣を作っている消鳥も優しく掴み、四匹を一ヶ所に纏め元気な声を上げる。
「もー……喧嘩したり好き嫌いはダメなんだよ?犬さんや猿さん、鳥さんもみんな仲良しの輪を作ろうよ!!」
そう言って動揺で固まっている、猿の両手に犬の前足と豚を、犬の前足を鳥の羽に、羽と豚の体をそれぞれ繋ぐと、小さな生き物達のとっても小さな輪が眼前に現れる。
それを見て満面の笑みを浮かべると、歌を口ずさみながら手拍子を始めるミフィレンと歌に合わせ、手足と羽を動かし始める魔法動物達。
「みんなで仲良く手を繋ごうー!!お日様サンサン太陽さん!!気分はルンルン、今日も1日まん丸笑顔で過ごしましょー!!」
その光景をセリエは笑って見ていたが、錦糸卵が手拍子をする丁度真横で見ている屈強な男ノーメンは、体を左右に揺らしながらリズム感抜群にテーブルを叩いており、同僚で昔ながらの知り合い同士だがこの時ばかりは、見たくなかった――――と心の中で思っていたとかいないとか。
可愛らしい歌が終わり、いつの間にか打ち解けた動物達と、父兄の様なノーメンの拍手喝采が起こると、おもむろにアイナが立ち上がり、白地のハンカチで目元を拭きながらこう言った。
「ミフィちゃんが良い事を言ってくれたわね……私達四人――――嫌、七人と四匹は互いに手を取り合い、助け合わなければいけない。こんな小さな子にいつの間にか忘れていた、大切な事を教わるとは思わなかったわ……」
指を鳴らし【幼い悪戯】で動物達含め、全員の体を宙に浮かせると、即座にもう一度指を大きく鳴らす。
腕を組んでいたセリエでさえ両手を開き、ノーメンとアイナの手を力強く握ると離れようとしても離れないので、セリエは恥ずかしながらも同意し、機嫌が良いアイナが全員の眼を見て話を続ける。
「これより私達は共に歩む、いわば仲間よ!!」
マスクの内で笑みを浮かべるノーメン、頬を染めながらそっぽを向くセリエ、意思を固く持ちもう一度人を信じることに決めたアイナ、仲良し大好きなミフィレンはこの時を待ち望んだいたように喜ぶ。
だが、ただ1人――――反応がないのは、気絶しているバルクスだけだった。
――――時には互いに衝突し傷付き傷付けられ、時には理解を深め信頼を寄せる……そんな人間達の讃歌が繰り広げられ、それぞれ【胸に秘めた誓い】は、屋敷に鳴り響く鐘の音と共に強く輝き出す。
そして――――永い夜が明け、ニッシャを生き返らせる旅立ちの朝がやってきた。