第76話【誓いの前日編その13】
(くそおぉぉぉぉ!!誰も見てねええぇぇ!!)
バルクスの魔力はシンプルに答えるならば、【体を鋼の様に強化する】と言うものであり、だからと言って別段珍しい訳でもなく、ただ硬いだけで特徴は何一つない。
だが、未来の卵が集結するこの道場で、曲がりなりにもアイナに次いで3番目の実力者である――――が、部隊所属を夢見てこの都に移り住み、齢20にして一流の登竜門を叩くと同時に、元々の素質や才能の限界を超える程の、努力と鍛練のみでここまで伸し上がってきたのだ。
日々の肉体研磨の成果である、自身の強化魔法ならまだしも、何かを創造する等という高等技術は、今のバルクスは持ち合わせていない――――筈だった。
「俺のおぉぉ筋肉達よおぉぉ唸れいぃ!!今こそ汗と涙の成果を見せろ!!」
バルクスは右手首を左手で強く握ると、一心不乱に魔力を手の平へ集中させ、あまりの力の入れように、迸る血汗とは裏腹に、1cmと満たない程だが4本の足だけが見えてきた。
(鍛え上げられた鋼の肉体は、大したものだ。だが……これと言って特筆したものはないな)
ノーメンはマスク越しから見えるバルクスの、熱気と根性を密かに見ては、今後の任務における最重要項目である、決して死なないことを見定めていた。
アイナ自身でさえ【幼い悪戯】の特性上、創造魔法は使えず、故に弟子達には協会に入隊するまでの間、教えることは一切ない。
だが、師であるリメイシャンが認めた者だけ、教わることを許される……が、集中力を極端に要するため、そもそも実践向きではない。
小さな手の平でリンゴを奪い合う結末に勝敗が着き、消鳥が上昇する方向を見た、ミフィレンの瞳に映ったのは――――あれだけの雄叫びを上げながら作られたとは、到底思えない程のまん丸で小さく、それでいて可愛らしい【鋼豚】が、ちんまりと手の平で居座っている姿だった。
「アイナさん……俺、出来ま……した……よ……」
意識朦朧の中やり遂げたことに満足したバルクスは、薄れ行く意識の中アイナへと報告するが、それに答えるアイナの口から出たのは、余りにも非情な一言だった。
「えぇ、良く頑張ったわねバルクス――――でもね、その文鎮は動かさないわよ?」
「文鎮じゃなくて……これは、ぶ……」そう言って徐々に意識が離れてゆき、疲弊した体は再び顔をテーブル上の皿へ突っ込む。
手の平で造られた鋼豚は、重量感をミフィレンに与え、仲良く歪み合っている、【犬と猿】の間へ割って入るように降り立った。