第74話【誓いの前日編その11】
ミフィレンは抱き合う2匹を両の手で掬うと、「これからよろしくね!!」と言って、笑顔を振り撒く。
天井から滑空し鳥の巣に酷似した、金色の癖毛に停まる消鳥と、抱き合いながら啀み合う荒猿と炎犬は、水面下で怒りを燃やしながら、静かに喧嘩をしている。
まん丸笑顔を周囲に振り撒くと、嬉しそうな顔でノーメンの横へ座り、仲良く抱き合う2匹を見つめながら、正面のアイナへお礼をする。
「アイナありがとうね、ちゃんとお世話するから安心してね!」
先程まで鬼の形相だったアイナも、目先の笑顔には弱いようで、「ミフィちゃん、友達沢山出来たねー!!」と言いながら、機嫌よく振る舞っていた。
それを見ていたセリエは頬杖をしながら、風魔法でフルーツをカットし、そのまま口へ運び果汁を迸らせながら言った。
「アイナちゃんの操作系魔法も大したもんだねぇ……まぁ、それはいいとして、和やかな雰囲気ぶった切って悪いけど――――俺達四人で【晦冥の奈落】に行くのは賛成なんだが、ちゃんと勝算はあるのか?小さい子の前でこう言っちゃ何だが、4人の内1人は《《確実に死ぬぞ?》》」
その言葉を聞くや否や顔から笑みは消え、真剣な表情になると抱いていた赤子を、【幼い悪戯】により、子ども部屋で寝かせることにしたアイナは、手を離し子を宙へ浮かせると、眠りに就いた体は浮遊しながら自動で開く扉を潜り抜け、僅かに揺れる心地よさと、廊下の灯りに照らされながら部屋を後にした。
赤子を見送ったアイナは、聞かれないようにミフィレンの聴覚を一口サイズのリンゴで塞ぎ、腕を組みながら浮遊する紅茶を一口含むと、長い瞬きの後にセリエの瞳を見て話し出す。
「勝算?戦略?――――そんなのないわ!!あんた達何か勘違いしてないかしら?たとえ無茶で無謀と言われようと、私1人でも行く覚悟はあるし、この身を彼女に……嫌、パパが託した《《誇り》》になら、《《この命》》いくらでもくれてやるわよ!!」
気持ちが高ぶるアイナの怒鳴り声は、幸いにも3匹と戯れるミフィレンには聞こえず、しかし、永らく気絶していたバルクスが飛び起きる程の声量だった。