第73話【誓いの前日編その10】
そんな大人達の考えは露知らず、少しだけ気分が晴れ、新しい小さな友達はミフィレンの手で毛繕いをし、愛嬌たっぷりに微笑み掛けるが、それをよく思っていない者がいる。
「グルルッー!!ワンワンッ!!」と頭の上で吠える炎犬は突如現れ、挙げ句の果てにご主人様に気に入られている、憎き荒猿を敵視していた。
そんな視線など眼中にない荒猿は、ミフィレンの肩に乗り移ると愛らしく頬ずりをし時折、炎犬を横目で見ては鼻で笑う仕草をする。
怒りで小さな体が燃え上がりそうになるが、そこは我慢し吠えるだけに留めようとした――――が、やはり怒りの炎は煮えきらず、荒猿に思いっきり飛び掛かる炎犬は、舞台をミフィレンの体から床へと喧嘩の場を移した。
二匹が小さな体でじゃれているのを他所に、ノーメンもセリエやニッシャに負けじと、宙へ造形魔法を繰り出し、アイナの方へ振り返り、マスク越しの目で訴え掛ける。
何だか、「俺のも動かしてくれ!!」と言いたげな顔をしている――――気がする……とアイナは感じ取った。
「お前もか……」と心の中で呟き、小さく溜め息をついたアイナは仕方がなく魔法をかけ、火を吐く炎犬と風を吹き付ける荒猿の喧嘩を制止させようと、空から奇襲を仕掛ける生物が、天井付近を飛び回り、それぞれの魔法を消失させた。
【消鳥】
これまた手の平サイズであり、魔力を帯びた対象を狭い範囲で、尚且つ小さい要領の分だけ消すことが出来る。
邪魔された挙げ句、悠然と頭上高く飛び回るそれに怒り心頭の猿と犬だが、気付かぬ間に側でしゃがみ込みながらその様子を見ているミフィレンに、心配をかけたくないのか精一杯の作り笑いと、無理な仲良しアピールで嫌そうに抱き合う二匹の姿は本当に滑稽だった。