第72話【誓いの前日編その9】
マスク越しから反発し合う二人を交互に見ながら時折、赤子の機嫌とミフィレンが慌てて喉に詰まらせないかの、気遣いを影ながら行うノーメンの気苦労を誰も知らない。
(これから皆で行くのに仲良くしようぜ?全く……近頃の若者は血気盛んで困るなぁ……ミフィレンちゃん、一口は危ないから切ってあげようか?)
数分の口論が繰り広げられ、ラシメイナはいつの間にか眠り、ミフィレンは飽きたのか、ノーメンが出した小さな子犬と一緒に、テーブル周りを駆けていた。
喧嘩する雰囲気も無くなり、息を切らしながら睨み合うと、先に折れたのはセリエだった。
「まぁいいや、一時休戦の協同戦線と行きますか――――場所が場所なだけにな」
「えぇ、しょうがないから私達も力を貸してあげるわ、ミフィちゃんにはニッシャが必要みたいだから……」
それを聞いたミフィレンはアイナの元へ駆け寄り、「ラッシーは任せてね!!」と言って頭に乗っかる子犬と共に、赤子を撫でお姉さんの様な振る舞いを見せる。
それを見ていたセリエは何かを思い付き、手招きをしながら呼んだ。
「おいチビッ子――――優しくて格好いいお兄さんから、素敵なプレゼントやろうか?こっち来てちょっと両手を出してみ?」
プレゼントと言う響きに弱い少女ミフィレンは、蒼色の眼を輝やかせながら小さな手を器型にし、笑顔で前へと突き出す。
(プレゼントって何だろう……俺、持ってきてないんだけど。玩具とか洋服とかかな?)
無口なノーメンがそんな事を考えているとは誰も知らず、真剣な表情のセリエは、人差し指で絵を描くような仕草をすると、ミフィレンの癖毛が上へと跳ね前髪は横へ流れて行く。
そこに現れたのはニッシャの犬と同じく、手の平サイズの動物を模した造形魔法であり、子犬に続き友達が増えたミフィレンは、喜びの表情をするがその笑顔は、途端に無くなる。
「あれっ?――――お兄さん、この子動かないよ?」
「大丈夫大丈夫!!ちゃんと生き物の様に動くからさ、ねぇ?アイナちゃん?」
セリエの思い付きを振られ少しだけ顔を歪ませるが、喜ぶ顔が見たいがために多少の怒りを呑み込むと、赤子を抱いた手を器用に動かし、【幼い悪戯】をミフィレンのために使う。
すると、魔法により命令を受けた生物――――もとい、【荒猿】は、髪を揺らすほどの【風】と、静電気に似た【雷】の二面性を併せ持っているセリエ独自の魔法だ。
皆、口には出さないが生物を創造するのは容易い筈もなく、ニッシャがやってのけた【命を吹き込む】行いは、一流の魔法使いでさえ困難を極めるのだ。




