第5話【進行する恐怖】
【協会内部広場】
(僅かだが気づいたのは協会でも数名である)
その一人である、ノーメンは数秒を見逃さず、落下する【それ】が着地する寸前にミフィレン含む子ども3人を消し、15M程離れた、己の足下まで移動させた。
噴水は破壊され大きな水飛沫と視界を遮る砂煙が上がり、巨体の影が映しだされた。「ドスン」という鈍い音と共に現れたのは。
〔暴君牛人〕=【危険度level-Ⅲ】
(全長はレモン60個分と巨大であり、自身の背丈ほどの牛刀を持つ。その昔1体で魔法使いを92人斬殺したとされている。あらゆる生物の頭骨をネックレスの用にぶら下げている)
なぜ、魔法壁が消えたのか疑問は残るが気魂しいその雄叫びは都中に響き渡り侵入されたことを安易に分かる合図となった。
ノーメン程の実力者ならば、互角または勝利することなど容易い筈だがそれが出来ない状態に陥っている。
魔力消行記憶は己以下の魔力を消し去ることができる
だが無限ではない。
消し去りその事実を保持することができるだけだ。
保持するために消費される魔力は対象のおよそ倍である。
ミノタウロスの魔力が40【80】
ノーメンの魔力を100とするならば、消し去ることが可能だが、今後の戦闘を加味するならばここで倒さねばならない相手となりえる。
(ここでやるしかないのか。だが被害が甚大になるやもしれん......)
この場において戦闘のスペシャリストたる、ノーメンだが、その戦い方は地味で相手の攻撃を一時消し去りそして解放するという至ってシンプルな戦い方だ。
そんな思考を巡らせるなか先に動いたのはまたも、ミノタウロスである。
(ミシッミシッ)という、瓦礫を踏みつけまるで飴玉を粉砕したような音を響かせる。
一歩、また一歩と徐々に追い詰める姿は、どちらが獲物で誰が狩人かを瞬時にわかる状況であった。
そんな中、唯一立ち向かったのはあの【犬】だった。
小さい体ながら、必死に喰らい付く
。だがその巨体の前ではたかだか子どもの手のひらサイズの犬など蚊ほども思っておらず、素通りをする。
負傷少女
無力な赤子
子犬と飼い主
そんな状況で守りつつ、倒すのは可能なのか。
一瞬の気の緩みも許されない中で、考えを巡らす。
咄嗟にノーメンはニッシャから受けたあの時の攻撃を、ミノタウロスの足元めがけ放射する。
受けた攻撃魔法は、保持された分、加算され元の威力よりも格段に破壊力が上がる。
地面が燃え上がり天にも昇るその勢いは凄まじい爆発音と共にその体を包み込む。
だがその攻撃でも怯まず燃えながらも進行を止めない。
「ジリジリ」と皮膚の焼けるような臭いが立ち込めるなか、恐怖の塊がノロノロと近づいていく。
(ここまでか......)
身を挺して守ると誓い、最後のあがきをみせようとしたその時、ミノタウロスの肩がクレーターのように陥没したのだ。
肩を押さえながら、牛刀を執拗に振り回す。
炎を帯びた牛刀が当たり、柱の切り口からは火花が咲き、幾重にも斬撃が残る。
そんな中、ニッシャの炎を得たことにより、水をえた魚のごとく。手のひらサイズだったものがあろうことかミノタウロスを越す程の強靭な体を手に入れたのだ。
迫り行く巨体の後ろに、もう1体、その身を燃やす姿があった。
小さな子犬=【危険度level-0】(ニッシャにより造られ、ミフィレンに忠実で、手の平サイズのその体はとても可愛らしい)
↓
〔獄炎猟犬〕=【危険度level-Ⅲ】(体内に蓄積されていた、大量の魔力が外から加えられた力により爆発的に増幅されこの姿をえた)
広場では命を賭けて闘うものがいた。
あるものは、主人を守るため、そしてあるものは子守りの延長戦。
大変危険な状況にもかかわらず、偶然にも騒ぎを聞きつけ、アイナと赤子を探していた親御さんが現れたのだ。
母親と言うよりは、老けておりどちらかというと祖母のような白髪の女性は元々曲がった腰をさらに曲げ、丁寧な口調で話し出す。
「アイナちゃん達は、私が避難させるからあとはお願いします」
ミフィレン達は老婆に任せ、私は「獄炎猟犬」のサポートに向かう。
【応接室内部】
緊迫した、状況だがミフィレンが心配で話が全く頭に入らない。
ノーメンに任せた事に多少の、後悔を覚える。
「おい...さっきの揺れは何だ?ここは魔法壁で安全じゃなかったのか?」
いてもたってもいられずイライラが募る。
「ここは安全だ。問題はない。そんなに気になるのなら外の状況を見してやろう」
そう言うと、ガラス張りのテーブルからホログラムが浮かび上がり、外や内部の様子が映し出された。
魔法壁外側では、互いの力が均衡しており援護信号を出していた。
広場では、ノーメン、獄炎猟犬が暴君牛人と善戦となるが、両者一歩も引かずといったところだ。
幸い被害は、出ておらずこのまま長期戦に持ち込めば勝機はありそうだった。
気だるそうに画像を見つめるニッシャだったが、ミフィレンの姿がないことに気づく。
驚いて、食い入るように見つめる。
「あの野郎に任せた私がバカだった......」
任せた相手が悪かったと改めて、頭を抱え込んでしまった。
そんな私を見て、我に秘策アリとでも言いたそうな顔をしていた。
「ニッシャ君、ここに入った段階で個人の魔力」は判別出来るのだよ。まぁ君みたいに例外はあるが、幼い少女一人など造作もなきことだ」
両隣の護衛に合図を送る。
私の姿が映し出され、文字が浮かび上がり、これまでの行動が羅列されていた。
いつ どこで 誰が どうして
「このように、登録されていたり、都に来た段階で個々の魔力を調べあげているため指1つで情報がでるのだよ」
あまり、納得がいってないのか、目は点になり、口を開け「ポカーン」という感じだった。
「詳細を知りたければ、ココを拡大すると...君の固有魔力、や経歴を知ることができる」
【ニッシャ】
固有魔力=【火早炎迅】
〔B.W.H〕92cm. 56cm. 84cm
〔T.W〕180cm62kg
〔出生地〕都市1番街‐15‐15‐11
〔経歴〕
10歳‐最年少で協会付属卒業
12歳-討伐部隊入隊、才能が開花する。
15歳-最年少記録更新、輝かしい戦歴を刻む。
18歳-部隊長就任、総kill数歴代1位記録殿堂入り。
20歳-元部隊長殺し、並びに都永久追放
25歳-5年ぶりに都入り※〔超〕要注意人物。
〔危険度level-Ⅳ〕
「プライベートっつう概念はないのかねぇ...ココわ?」
映し出された自分に煙を吹きかける。
老年男性の顔いっぱいに、かけられた煙で煙たそうに手で扇ぐ。
「ゴホッゴホッ」という喉でつっかえたような、声が鈍く聞こえる。
初めに都入りした時の画面に切り替わり、ミフィレンに照準を合わす。
いつ どこで 誰が どうして
そこには、ミフィレン、老婆、アイナ、赤子の四人が映し出された。
どうやら、避難所へ向かっているようだった。
私は一先ず安心した。
「その、探しているのはこの子かね?」
シワが入り、短い指でミフィレンを指す。
あぁ、そうだよ。いいから早くしてくれ。
と言うと、少し顔がひきつったが詳細を確認する。
【ミフィレン】
固有魔力=【?????】
〔B.W.H〕55cm 41cm. 50cm
〔T.W〕100cm22kg
〔出生地〕ピスタリア王国第1王女
〔経歴〕
5歳-郊外の危険地区にてニッシャと出会う。
〔危険度level-0〕
「あの子が、王...女?これってマジなの?」
再び驚いて脳の処理が追い付かない。
老体は、私よりも目が飛び出そうな程、驚いていた。
「協会に登録されていない魔力も驚いたが、この子の存在事態あり得ないことだ......!!」
私が状況を把握してない顔をすると続けざまに話す。
シバによればピスタリア王国は数百年前に崩壊し幻の国と呼ばれていたらしい
伝書にも記されている通り、国同士の内乱で一族は死に亡骸は全てその土地へ埋葬したみたいだ。
だが本家の血筋のあの子が何故生きてこの時代にいるのか不思議と奇妙さで驚愕していた。
まぁ、後半らへんはほとんど話は聞いてないが要点はそんなところだ。
煙草を吸い終えると、おもむろに立ち上がる。
「待て!ニッシャ!こんな状態でお主どこへ行く!」
止めようと、護衛を使い扉の前に立ち塞がる。
「どけ!!邪魔だ、私は煙草買いにいきたいんだ」
睨みを利かせ、護衛は崩れるように気絶する。
「やはり、昔から変わっていないな。好きなことをして自由奔放に生きそうやっていつもお主は真っ直ぐな瞳をしていたな」
懐かしそうに私を見ると、少し微笑んでる気がした。
「無事を祈るぞ。ニッシャ」
扉が自動で開き私は、ミフィレンを探すため外へ出る。
仕込んでいた煙草を再び吸うと
お祭り騒ぎのような協会内外へ、繰り出す。
「さぁて、一暴れするか~」
【協会内部広場】
(こいつ化け物か......)
息を切らせ跪くノーメンは、目の前の2匹の死闘を見守るしかなかった。
本来、攻撃役に向いてないノーメンは、主力になれず獄炎猟犬のサポートをするしかなかった。
だが2匹の激しいぶつかり合いにより完全にタイミングを、見失ってしまった。
正面からの攻撃は全て、牛刀で防御、反射されてしまうため、あの、牛刀一本で〔攻〕〔防〕〔反〕全て賄えてしまうためとても厄介であった。
(どうにかしてアレを使えぬようにし、死角から攻撃せねば......)
牛人は両手を使い、大振りで斬りかかる。
それを避け、一定の距離を保っていた。
(指を咥えてただ見てるわけにはいかないな)
咄嗟に何かを思い付いたノーメンは、あろうことか獄炎猟犬を消したのだ。
突然目の前に消えた強敵に、一瞬静止したかに思えたがゆっくりとその巨体はノーメンへ向かってくるのだ。
立っているのも、ままならないほど「フラフラ」であったが正面から立ち向かう決心をした。
お互い満身創痍な状態であったが、おそらく次の一撃が最後だと直感でわかっていた。
(さぁこい。もっと近くに!!)
その意思が伝わったのか、ゆっくりと向かってくる。
両者の距離が、およそ牛刀の攻撃範囲内、渾身の力で振りかぶり頭上に差し掛かる寸前、ノーメンは右手で受ける。
【獄炎の籠手】、牛刀の遠心力+牛人の力+熱量が加わり直撃せずに溶解したのだ。
使い物にならないと、気付き後方へ投げ捨てる。
「ドスン」という、鈍い音がした瞬間、両腕を振りかぶる。
ノーメンはそれに合わせ、両手で拳を合わせる。
両者の周りには鋭く燃え盛るような衝撃波が立ち、瓦礫や水が舞い上がる。
均衡する力だが圧倒的な体格差、それに加え疲労もあり徐々に押され始める。
両足の「ミチミチ」と骨が軋む音がわかる。
全体重をかけられ、巨大な岩石のようにその身にのしかかる。
威力を上げようにも、先程の火力で大部分は消費してしまった。それに加え、獄炎猟犬の魔力を使いきる訳にもいかなかった。
地面に、背中が合わさりそうな程押されたところで奥の手を使うことになる。
最大火力獄炎×電磁加速砲
あの時の攻撃は、幾倍にも膨れ上がり牛人の肉体に穴をあける。
稲妻は体中を駆け巡り、獄炎はその巨体を燃やし尽くしていた。
「ヴォォオ」と悲痛な叫び声が聞こえたがやがて鳴き止み。
巨体のど真ん中を貫く一筋の光が降り注ぐ。
ノーメンはこれを予想し上空へ、炎雷を逃がしたのだ。
使いどころを間違えれば、都が吹き飛んでしまうため、それを避けるためギリギリを狙ったのだが予想外に苦戦を強いられてしまった。
(柄ではない、闘いかたをしたが存外悪くないかもしれん)
指も動かないほど消耗したため、しばらくは都外にいけそうもなかった。
握った拳を開くと、小さな子犬が眠っていた。
それを横目に一息つくと静かに目を閉じた。
【獄炎猟犬】と【人】、相容れない二人だが、その意味は大きく、その眼前にはどこまでも広がる蒼天が広がっていた。