第57話【子育て日記二日目】(終結編その5)
【屋敷内精神の滝】
一向は破壊された道場を後にし、興奮した思いを静める様な、永遠と流れ出る水の囁きや匂いを耳や肌で感じていた。
呑気に昼寝をしているラシメイナを強く抱いているミフィレン、それから勇ましい顔つきのバルクスは、まだほんのりと体温が残るニッシャを背負って【精神の滝】の入り口へ立っていた。
「アイナさん、死者をここへ連れてきてなんの意味がおありで?」
不思議に思ったバルクスは、背を向け血で汚れた手を水で洗い流すアイナに質問をする。
滝を背に両手を後ろに回したアイナは、落胆し虚ろな表情を見せる、各々の顔を見比べながらこう言った。
「応急措置になるけどこの滝から流れ出る水には、【治癒】の魔力が微量ながら含まれてるの。少しでも回復を促すため、出発までの間はこの場所で安静にしてもらうわ」
暗い表情のバルクスは無言で頷くと流水まで数歩進み、片膝を着け優しく丁寧にニッシャを降ろし、その朱色の髪は意思なく水面へ垂れ、両手を胸の前で組んでいる女性をそっと浮かべた。
「主はもう俺の友だ―――暫しの間、安らかに休まれよ……」
負傷し絶命しているニッシャの体は、透明な純水を赤色の血液で染めながら、ゆっくりと滝壺の方へ向かい、手を振り叫びながら見送るミフィレンを後にした。
「この数日、あなたといて楽しい事しかなかったよ?ニッシャ……さようならは言わないよ?またね……」
(【愛】と言う尊い感情を呼び覚ました女性を、俺は必ず我が肉体を駆使して、救ってみせるぞ)
(貴女を一時の感情で私怨により殺したのは、間違いだったわ。でもね―――【晦冥の奈落】に行くのは、後悔でも償いでもないの、私自身の過ちを正すためよ)
各々、この様な状況下で心に思う事はあるだろう。しかし、その言葉は今のニッシャに届くことはなく、もしこの世界に神がいるとしたら、この先の残酷な結末をどう思うだろうか?―――。




