第55話【子育て日記二日目】(終結編その3)
衝撃的なアイナの一言により、騒ぎ立ったいた群衆は静まり返り、治癒を施していた者の手は次々と止まっていった。
固唾を飲んで聞いている弟子達の間には、「もう諦めよう」、「最善は尽くした」と言った声が飛び交っている。
「だけど……方法は0ではないわ。この話は貴方達みたいなヒヨッコ魔法使いでも、一度は聞いたことがあるはずよ。その場所は幾多の人々が挑んだが生還した者はおらず、実質的な成果と死者の比率が1:9なの」
バルクスの胸の中でニッシャを失う恐怖に怯え、眼を固く閉じ耳を塞ぎ、現実を受け入れたくないミフィレンも、思い半ばで諦めていた……その時だった―――
「可能性が0.1%でもあるなら、俺行きますよアイナさん。その場所教えてくださいよ」
諦めが悪いただ一人の男バルクスは、迷うことなく手を挙げている……だがアイナはその行為を心地よく思っていなかった。
「あの程度の実力じゃ、どう足掻いても無理よ。その気持ちだけは汲んであげるけど、今のあなたじゃ話にならないわ」
冷酷な事を言っているがアイナ自身、単身で挑むつもりであり、これ以上の犠牲を払わないためにも非情になるのは、仕方がなかったのだ。
されど男は後退せず、真っ直ぐアイナを見つめると深々と頭を下げる。
「なら―――今すぐ俺に稽古を付けてください!!それで……もし、音を上げる様なことがあれば、即刻切ってください」
腕を組み合わせ小さく溜め息をしたアイナは、天井を見上げながら喋り出す。
「筋肉を付けるなら、【頭】じゃなくて【心】にしなさい。いい?死んでも生き返らないし、庇えないのよ?それを分かった上で事態は一刻を争うものよ、心して挑みなさい。出発は明日の明朝に玄関口に来てちょうだい。それといい忘れたけど、目的地の名称は―――」
【晦冥の奈落最深部】
そこは闇より暗い海の底、奈落の長たる生物と対峙している人物がいる。
【真・捻海竜王】=【危険度level-Ⅳ】
(奈落の主にして、数少ない幻のlevelⅣでもある。数万と連なる無数の鋭歯、それに加え円周20M、全長は十数kmもあり、長尺な体は、一度動けば海底の地形が変わり、その逆鱗に触れれば歴史が変わるとされている。)
相手は天災level、対して此方は素手での戦闘に加え、足場も悪く酸素もない。
それに、立ち向かうは体長1700mmの何かだった。
もはや、勝敗は火を見るより明らかであり、【無謀】としか言いようがない―――だがその人物は暗闇で己の手足を見ることすら、ままならぬ中、確かに【笑い】そして、【喜び】に満ち溢れた恍惚な表情をしていた。
想いを込める様に固く、そしてありったけの力を注ぐ様に握った拳を【海底の主】へと向ける。
「相手にとって不足なし。さぁ来なよ、化け物―――」
【?????】【危険度level-不明】




