第53話【子育て日記二日目】(終結編その1)
【ニッシャ精神世界】
最早見慣れた景色となっている真っ白な空間にニッシャは頬杖を付きながら寝そべっていた。
気分が悪くなるような浮遊感を味わいながら、例のアイツが来るのを待つ―――が、待てど暮らせど一向に現れる気配がない。
「おーい、偉大な火の精霊のレプラギウスさんいる?また来ちゃったんだけどさ、この前みたいに力貸してくれないかなー?」
声が何処までも響いていくのが分かり、軽い気持ちで呼んでみたが、何故か反応もしない。
「あれ……私もしかして本当に死んだの?」
あまりに衝撃的な事実に驚愕して身体をお越すと、慌てて周囲を見渡すが、永遠に続く純白の景色は、無力なニッシャだけを呑み込んでいった。
【屋敷内道場】
両手一杯に顔を覆うと膝から泣き崩れていき、「私は何て事を……」そう小さく呟き項垂れているアイナを余所に、救護班や後方支援を志望する弟子達が集まってゆき、息のないニッシャの心肺蘇生を緊急で行っている。
「ニッシャ!!起きてよ……ねぇ―――」
処置を施している屈強な男達を、何としてでも振り切り近づこうとしているミフィレンを、周囲の人間は唇を強く噛み締めながら涙を流すしか方法はなかった。
だが、ニッシャの【死】を諦めていないもう一人の男が近づいてゆき、現実を受け入れられずに泣きじゃくるミフィレンを小脇に抱き抱え、制止する男共の前を我が物顔で堂々と歩いてゆく。
鍛え上げられた鋼の肉体に唸る筋肉が自慢だと自負している、その男の名は、バルクス―――一撃で再起不能になったが、意識を取り戻すと共に芽生える【何か】に突き動かされ、拳を交わせた友を助けに来たのだ。
「おじさんありがとう……」そう呟くと数本欠け、血を滲ませながら白い歯をミフィレンに向けると、男らしい笑顔と共に力強くこう言った。
「最愛の人の子どもが泣いているんだ。その子を助けずに【最硬の筋肉戦士】は名乗れんよ」
天井にはミフィレンが魔法筆で書いた【みんな仲良し!!】と言う文字が、存在感強く輝いていた。