第49話【子育て日記二日目】(アイナ激闘編その2)
(おいおい……なにが、【魔力なし】の【模擬戦】です!!だよ……超痛ぇじゃねぇか―――)
尋常ではない痛みを精神力で抑え、体の自動修復を行おうとしている【精霊の魔力】を無理矢理断ち切ると、 血が滲んでいる胸部を左手で押さえ、岩壁となった道場の地下を無事な足と片手を使いよじ登る。
出口から見えるのは追撃をする素振りはなく、しゃがみながら頬杖をつき、呆然と登ってくる私を無言でジッと見つめていた。
数秒後ようやく開口付近の床を掴むと、勢いに任せ飛ぶが、激しい痛みのせいもあってか上手く着地できずに、片膝を着いてしまう。
床が近く息が跳ね返ってくるのを肌で感じながら、顔を上げると、目の前に仏頂面のアイナがおり、上から目線で話し掛けてきた。
「あら……まだ生きてたの―――中々渋いじゃない?それは、貴女本来の生命力?それとも―――パパから奪った【力】のせいかしら?」
ようやく事の顛末を理解した私は、返す言葉も浮かばず、涙で顔が歪んでいるアイナに謝罪の1つも伝えることが出来なかった。
血で真っ赤に染まっていく、胴着の胸ぐらを躊躇なく掴み、互いの息遣いを感じれる距離感まで近づくと、もう一方の手を使い、執拗に平手打ちを繰り返しながら怒鳴り散らす。
「大好きなパパが殺され、ママはその日を境に体を悪くして亡くなったの―――これも全て貴女が招いた結果よ……返してよ!!私の日常を……幸せな……思い……出……を―――」
声にならない声と、行き場の無くした思いがぶつかり、誰も止めることが出来ず、ただ立ち尽くすしか術がない見る者の言葉をも奪っていった。
(アイナは既に解っていたのかもしれない。当たりどころのない【怒り】と【淋しさ】を……だから私を毛嫌いしてたんだな)
やがて数十秒続いた平手打ちの応酬は止み、小さな両手を真っ赤に染めながら胸ぐらを掴むと、唇を噛み平常心を保っているのか、涙と混ざって大粒の雫が顔に当たる。
「犯人を探す為に毎日協会に通ってた!!来日も来日も何度だって!!そしてようやく見つけたの―――パパを殺し、平然と生きているニッシャを!!」




