第45話【子育て日記二日目】(組み手編その8)
ニッシャが歩き出すと、【モーセの十戒】を彷彿とさせるように、両脇に分かれた肉の道が、アイナヘ向かい一直線に出来上がり、それを優々と喫煙しながら歩いていく。
「ん~やっぱし、この火力じゃなきゃ煙草は旨くないな。しかしまぁ、やっとアイツを殴れると思うと笑いが止まらねえよ!!」
煙を周囲へ撒き散らしながら、悪役の様に不気味な笑顔を作り、ゆっくりとそして確実に、アイナヘと近づいていく。
「私も素手で人を殴るなんて久し振りかしらね……ミフィちゃん達ー?危ないから下に降りてきちゃ駄目だからねー!?」
首を痛めそうな角度で上を向いて叫ぶと、元気よく手を上げ、大きな声で返事をする二人の姿があり、おやつの時間に入ったのか予め渡していた、ニッシャ特製のカットフルーツを両手に持ち、更に蓄えるように、小さな口いっぱいに頬張っている姿があった。
私の耳には、確かに聞こえる―――天使の囁き?というか、応援してくれる声がさ。
「ふぃしゃばふぷっぱふはびはんほいひいよ!!」
「頑張ってニッシャ愛してるよ!!アイナをコテンパンに倒せ」ってな……
小さな応援のお陰か、より一層やる気に満ちたニッシャの足元は、力強く踏み込んでいるせいか足型が出来ており、古代の化石を思わせる様にしっかりと残っていた。
両者の距離がおよそ3M程離れた距離に入ると、顔を腫らした審判が申し訳なさそうに人の壁から出てきた。
「これより、特別試合を始める!!」
【東】ニッシャ【朱天の炎】 180cm 62kgVS【西】アイナ【小悪魔魚雷】130cm 33kg
「ルールは同じく魔力の使用を禁じ、模擬試合であり決して、死合ではないことを理解していただきたい。【時間は無制限】&【互いの健闘を祈る】」
「それでは皆―――逃げろー!!」
審判の手を振りかぶると開始の合図となり、巻添えを喰らわぬように、男達は全力疾走でその場から逃げ出す。