第39話【子育て日記二日目】(組み手編その2)
逆光と身長差もあってか見上げた形になり、眼を細めた私は、指でアイロンの様にボサボサの髪の毛をほぐしながら腹に力を入れて言ってやった。
「断る!!」ってな、あまりの気迫に驚き仰け反った男に追撃するように、こうも言ってやった。
「お前の組み手に付き合うんじゃねぇ―――私の組み手にお前が付き合え!!」ってな。
そんな訳で、さすがに水着じゃ相手も目のやり場に困るだろうから、指定された胴着に着替え、そいつとの模擬試合が始まった。
数十いた弟子達は私と男を軸に円の形になると、腕を組み、時折となりの奴と会話したり堅苦しい面持ちで組み手の行方を観ている。
互いに睨みあいながら位置につくと両者は向かい合ってお辞儀をし、早々に流派に沿った型をするバルクスに対し、ミフィレンの様に髪の毛を後頭部で馬の尾結びをするニッシャは、見るからに余裕綽々だ。
壁に寄りかかり蒲鉾の様に板にくっついているアイナは、横目で模擬試合を見ながら器用に指を動かし、子ども達を浮遊させると、おとぎ話に出てくる少年少女達のように自由に飛び回るミフィレンとラシメイナの子どもらしい笑い声が聞こえてくる。
はしゃぎ回る光景を微笑ましく見ているアイナだが、本命の模擬試合はというと門下生全ての実力を分かった上で、バルクスを対戦相手に選んだのだ。
「彼はこの道場で3番目に入る実力者、体格差もあるし戦闘経験なら十分負けてないと思うわ、さぁ元部隊長殿のお手並み拝見と行こうかしら……」
逞しい体つきの男達が囲む歓声の中、ただ一人の女性であるニッシャだが周りを見渡す素振りはなく、目の前の頑丈そうな筋骨隆々に笑みを通り越して、不気味な笑い声を発している。
主審を勤める弟子の一人が両者の間へ入り、開始の合図を高らかに執り行う。
【道場伝統 組み手試合】
【東】ニッシャ【朱天の炎】 180cm 62kgVS【西】バルクス 【格闘家】190cm 93kg
「では、正式に模擬試合を始める。ルールは魔力抜き、命を落とさぬ物とする。あくまでも模擬であり実践ではない上で理解していただきたい。それでは両者構えて―――はじめ!!」




