第36話【現れし闇】(暴食編その6)
生きとし生ける物、全てにおいて【時】は無限ではなく有限であり、どんな事象も干渉不可とされていた……そう、【ヤツ】が来るまでは―――
ノーメンの命を賭した最後の一撃は、万足を捉える直前にその動きを止める―――否、全ての時が止まっており、音もなく静寂に包まれた状態が漂っていた。
それはまさに時を自在に操る力であり、この世の森羅万象、あらゆる事象に干渉可能とされる、この世で最も規格外な力である。
【時の宝珠】
突如として現れた謎の人影は、防御に撤し固く身構える万足を消失させると、目を開けられないほどの眩い光を放つそれに対し、軽く手を触れただけで跡形もなく消え去った。
年齢不詳、男女さえもわからぬその声の主は時の静止した中、平然と消え行く命に歩きながら語りかけ、歩を進める度に、周囲の破損箇所は元通りになってゆく。
「万足いずれ使うから貰っとくね?あなた見ない間に随分と酷い顔になったわね。こんな所で死なれたら私の計画が台無しになるからやめて欲しいな?」
【時の雫】
黒地の手袋を外しそう言って、元の姿など見る影もないノーメンの頬を優しく触れ、まるで元から傷がなかったかの様に治る。
「ほら、これで元のイケメン顔に戻ったじゃない!!それとこれを着けてお仕舞いね!!」
粉砕していたマスクもついでに復元させると早々に顔に着け、一周回って身だしなみを整えると満足そうな笑みを浮かべる。
元通りに治癒したノーメンを後にし、鳥籠の中のセリエに触れようとしたその時、弾かれる様に手が後方へいく。
「痛った~い!!見えないバリアも厄介ね全く……まぁ私にはそれこそ無意味だけどね」
まるで自動ドアが開くように解除されるとそこには、友に最後の別れを告げるように左目から大粒の涙を流しているセリエの姿があった。
「君達をここで殺すのは容易いんだけど、今は止めとくね。だから―――もう少ししたらまた会おうね?それじゃ、ばいば~い!!」
戦いの記録は消え、まるで初めから無かったかのように、一瞬で消えたその人物は、思いを言い残すと再び時が動き出した。