第35話【現れし闇】(暴食編その5)
互いの距離は腕を伸ばせば届く程近くにあり、体力や精神的にも限界を越えていたノーメンは先手を打ち、右の拳を固く握りしめると型の整った正拳突きを放つ。
衝撃波が鋭く立つが、万の足を器用に使い威力を殺すと右を封じられ、残る左手で攻撃を仕掛けるが同じように拘束される。
万を超える足に、2本の腕で立ち向かうなど【数千球のボールを一本のバットで打つ】に等しく、それはまさに無謀と呼べるだろう。
文字通り手も足も出せず、密着するように体を捕まれ、もはや策は尽きたかに思えたその時だった。
ノーメンは血反吐を吐きながらも、ありったけの力を振り絞り叫ぶ。
「セリエー!!俺ごとやってくれー!!」
瀕死の友に守られ安全地帯でその言葉を聞いたセリエは、一瞬の迷いもなく全身全霊を込めて撃つ。
【levelⅡ-雷災落壊】
強烈な光を放つ稲妻が突如として空を駆け巡り、激しい轟音と共にノーメンと万足に向かって一直線に落雷が直撃する。
自慢の足をまるで【蜥蜴】が尾を切り離すように、数百本の足を犠牲にし、一紙一重で直撃を避けると、あざ笑っているかのような奇音を発していた。
先程の場所は周囲が複数箇所も抉れており、威力の凄まじさを物語っていた。
閃光のような光が徐々に弱まるとそこに立っていたのは、右手を天に向け、左手は万足を捉える姿があり、【避雷針】の様に全ての雷を吸収し、暗闇を照らすその姿はさながら【雷神】を彷彿させていた。
「お前は、その命尽き果てるまで脇役のままだ。何故なら―――俺が【主役】だからだ!!……さらばだ、友よ―――」
左手からは、セリエから貰い受けた【level-Ⅰ&Ⅱ】を宿し、人生最後の一撃を放つ。
【暴風×電磁加速砲】
この日、【深淵の渓谷】には、世にも珍しい光景が広がっている。
闇夜を貫く光の道は、強固な岩を削るほどの激しい風を巻き起こしながら敵目掛けて放たれる。




