第33 話【現れし闇】(暴食編その3)
日常で使われる【薬品】や自然界で最大の武器となる【猛毒】と多種多様な使用方法があるが、そんな毒には大きく分けて三種類の性質に分かれており、主な参考資料として、次のように分類されている。
【個体】
一口サイズの木の実に似た糞をする小動物がおり、自身では力が弱く狩れないため、糞に含まれる致死性の毒で狩猟を行う。
【液体】
果実のように甘い樹液の匂いに釣られ、やって来た大型昆虫を、【強力な粘着性】と【天然の麻酔薬】により対象は、文字通り甘い夢を見ながら消化される。
【気体】
この物質が一番厄介な所は、人間の鼻では認知出来ぬ匂いと限りなく透明で、素早く浸透し気づかぬ内に毒されることだ。
【深淵の渓谷中枢】
微かに零れ落ちる血液の音を頼りに、奴の動向を把握できたのは勝利への一歩と呼べるだろう。
聴力のみを頼りに暗闇の中、溶解液を噴出させる万足の攻撃を紙一重で回避する中で、一撃逆転の好機を伺っていた……が、突然体の自由が効かなくなり膝から崩れ落ちるように地面へと倒れ込む。
奴はただ闇雲に周回していたのではなく、ノーメンを中心に揮発性の高い液体を散布し、徐々に弱っていくのをただひたすらに待っていたのだ。
【神経毒】は少量でも体内に取り込むと感覚が麻痺し、大量に摂取すればやがて死に至る非常に危険性の高い物質である。
最早、糸に絡まった揚羽蝶の如く奴の狩りは、直接的な攻撃方法ではなく、罠を張り巡らす高貴な狩人そのものだ。
痺れる体が毒で侵され始めると、最初に変化が起こったのは、司令塔である【脳】であり、次に襲うのは激しい嘔吐に加え、露出している顔が腐食し爛れていく。
ゆっくりと、こちらへ近づいてくるのが腐り落ちそうな耳でも微かに分かるが、されども力が入らず魔力も通常通りとは、いかないもどかしさに怒りを隠せなかったが脳は考えることすら放棄していく。
その行動は初めて己の力で獲物を捕らえた喜びなのか、万を数える足は互いに擦りあうと、奇妙な音を発し、徐々に大きくなるそれを薄れ行く意識の中で呆然と聞いていた。
我ながらこの人生に悔いはないと思考を巡らした―――その時だった。
一陣の旋風が万足を足元から絡めとろうとしているが、万の足は地面へと深く突き刺さり耐えしのいででいた。
「ふぁ~。やっと充電完了したよ……ここは俺に任せて、ゆっくりしててよ」
まるで目覚まし時計を叩くようにノーメンの頭を撫でると、眠りから覚めたセリエは、一定の距離を保ちながらも見えているように振る舞いを続ける。




