第31話【現れし闇】(暴食編その1)
視認出来ない巨大な「何か」は、力付くでノーメン達を屋外へと追いやり、寝ぼけていたセリエが手放した【蟲毒玉】を吸収した。
その瞬間、突然変異が起こったのか、眩い閃光が辺り一帯を数秒だけ照らし出したが呑み込むようにして暗黒が覆う。
子犬の灯りがあってもせいぜい2M先がいいところであり、正体を見るために灯りを持つことにより反対に己の位置を教え、こちらが不利になる事は明白だ。
右手を優しく握りしめるとただ一つの灯火は消え、洞窟から吹き付ける奇妙な風と呑気なセリエの寝息だけが残された。
普段感情を表に出さないノーメンは寝ている相棒に代わり、その「何か」と戦うことを固く決意すると、留め具を外す音が小さく鳴り、鼻で新鮮な空気を取り込むように数度程、深呼吸をし口を開く。
「マスクを外すのは実に5年振りだな。ここは良い場所だ……太陽の光さえ届かず、それでいて周りに危害を加えることはない。セリエが起きる前に文字通り瞬殺してやろう。」
依然として敵の姿や危険度levelは分からないが、【深淵の渓谷】の攻略難易度はニッシャが暮らしていた、【外の園】よりも極めて高い数値であり、平均levelは【Ⅲ】である。
なぜそんな危険区域に2人だけしか来ていないのか?
いや―――来れないのだ。
ノーメンの魔力は、視認できる範囲全てに効果があるため大人数は反って不利になり、セリエに関しては大規模かつ広範囲な技のためやむ無く昔からの顔馴染みである二人組で行動している。
【敵の正体】を瞬時にして記憶していたが、今まで見てきたどの生物よりも奇怪かつ、見るに耐えがたい容姿をしており、記憶が正しければ協会にある書物に、こう記されていた。
そいつは、森や渓谷、荒れ地などに生息する【美食百足】の亜種にして超希少種、【掃除屋】と呼ばれている個体だ。
【暴食万足】=【危険度level-不明】
(食い荒らされた死肉のみを食すため積み重なった毒は計り知れず、渓谷では暗黙の了解もあり他の危険種は見て見ぬふりをするため永らく生き延びてきた強運の持ち主である。【蟲毒】を吸収した事により【危険度level】が変動し、【足】の数は食してきた数だけ増殖するとされている)