第21話【子育て日記2日目】(朝食編その7)
我ながらなんでも卒無く熟してきたし、手先だけは器用なつもりだったが現実はそうとは限らず、【感覚】と【魔力】だけを頼りに生きてきた己を過信していたのかもしれないな。
朝食が終わり忙しなく動く椅子達は、まるでプログラムされたように静かに定位置へと戻り、空中で次々と消えゆく皿達をただ呆然と立ち尽くし眺めていると、アイナの小さな体が目の前を通りすぎていくのが分かる
細身の左腕で赤子を愛しながら、もう一方の手はミフィレンと繋がっていて、最初は、小さくて立派なお姉さん位にしか思ってなかったんだが、徐々に気づいてしまった……やることが、母親のそれだ。
(私も1児の母としてもう少し、【家事】と【育児】頑張んないとな……母親は子どものおかげで【母親】にしてもらったって何処かで聞いたっけ)
扉付近まで歩き、突然立ち止まりとこちらを振り返えり見上げながら、子ども達に見せない顔つきになると睨みを利かせ発する。
「ボーッとしてないで次いくわよ。」
そう、ひとこと言って再び正面へ向き直り、子ども達には可愛らしく「ニコニコ」と笑顔を振り撒いていた。
(私も女だが、ああいう八方美人みたいな母親って二面性あって怖いもんだな……)
めげずに食後の一服を……と思い煙草を取り出そうとしたが、先を歩いているアイナが扉を開ける際、口に咥えた煙草と私を見て早く来いと言わんばかりに鋭い眼孔でこちらを見ていた。
「はいはい……わかりましたよ。いきますよ……」
仕方なく火を着けるのを止め、胸元に煙草を食い込ませると、足早に【大広間】を後にした。
【屋敷内廊下】
ニッシャは、まるで保護者のように、中々前へ進まない【錦糸卵】と【チビ魚雷】の小さな背中を眺めており、腹は膨れたが煙草が吸えず多少のイライラが溜まっていたため喧嘩腰に話しかける。
「んで……アイナさんに1つ聞きたいんだけどさ?私に本当は、何させたい訳?」
「やっと気づいたか」と言いたそうな目を一瞬したが、二息程の時間が流れてようやく口を開く。
「お察しの通り、貴女を鍛えているのよ」
「私に修行?そんなの必要ないね!!」
そう吐き捨てると指を鳴らす音と共に、口がくっついてしまい、追撃を喋れなくなってしまう。
くぐもった声では何も伝わらず、頭の中で流れるアイナの説教まがいな有り難いお話を聞くしかなかった。
ミフィレンは、お腹一杯で満足したのか「テカテカ」の顔は幸せそのものだった。
「貴女、自分が何をしたか分かっているのかしら……危険度level-Ⅳを産み出したあげく、剰え討伐し損ねたのよ?協会内部は、自動修復で多少の破損箇所は、賄えるけど費用だって無償じゃないのよ?」
(被害なんて知ったこちゃないし、負けたのだってあれは私のせいじゃないからね?ちゃんと本気出せば勝てましたよ~だ!!)
くどくどと怒るアイナに対して、大人げない態度を取り続け、大きな身振りを交えて必死に抵抗しようとしたニッシャだったがそれも虚しく雑音となるだけだった。