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いつだってあなたが私を強くする  作者: 泥んことかげ
【第1部~出会いと約束】
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第19話【子育て日記2日目】(朝食編その5)

【屋敷内廊下】


ニッシャの気力と体力は、ここへ来てもはや限界を迎えようとしていた。

森の中での生活を思い浮かべると決して安全とは、言えなかったが不自由な事は何一つなかった……いや、寂しがりやな私は、孤独を打ち消す為に無心で滝に打たれるのが日課だったっけ。

炎魔法を使う私にとっては、水に対して極端に嫌っていたんだが不思議とあの滝に打たれると、魔力(マナ)の巡りが良くなり思考が落ち着くのに気づかされたんだ。


ある日、心の奥底で柄にもなく願ったのかも知れない。

生まれて直ぐ「無償の愛」って奴で育てられなかったせいか、人へ気持ちを伝えるのが苦手だった私の本心を引き出すために、「運命」って奴がミフィレンと引き合わせたのかもな。


「こんな遠い都まで5年振りに来たかと思えば初っ端から「喧嘩」吹っ掛けられるし、知らない屋敷で「雑用」と「飯の準備」とは全く……意外と楽しいじゃねえか!! 」


前へ進むにつれて鼻先を(よぎ)(こう)ばしい香りにより、食欲が刺激され先ほどまで歩くのが億劫(おっくう)だった体が前へ前へと足早に歩みを開始させたのだ。

広々とした廊下からでも、ハッキリと聞こえるほどの賑やかな話し声に私は、何かに吸い込まれるように大きな扉を力一杯押し開けると、そこで待っていたのは、屋敷内で暮らす弟子達100人が部屋の隅まで届く食卓に綺麗に着席していたのだ。


見渡す限りのむさ苦しい男の列に少々視界がふらついたが、目線を斜め下へ落とし、膝下程の所に子ども様の小さな食卓3台と「ニッシャせんよーです!!」と殴り書きで書かれている椅子が横に置かれていた。


とりあえず椅子に腰掛けると、奥の方からアイナが拍手を鳴らしながら此方(こちら)へ歩いてくる。

鳴らした側から手作り料理達が姿を現し、腹ペコの男達の前へ大量の朝食が眼前を覆い尽くす。


「今日の朝食は、(アイナ)でも師匠(おばあちゃん)でもなく彼女(ニッシャ)が作ってくれました!!」


隅まで聞こえるほどの声量は、静かになった部屋内で小さな存在を微塵(みじん)も感じさせないほど響き渡り、待ってましたと言わんばかりの、惜しみ無い声援と拍手に少しだけ体が熱くなるのが分かり、思わず照れ隠しで煙草を吸い出す。


アイナが端から歩き終わる頃には、最後に私達の食卓へ特別メニューが現れる。

目の前の小さな椅子には、いつの間にか「フォーク」と「ナイフ」を器用に持ったミフィレンと前掛けをしたラシメイナが、今か今かと待ちわびていたのだ。

変わらず食いしん坊なその光景に軽く頬笑むと、満面のコロコロ笑顔で答えてくれた。

こんなに大勢で賑やかな朝食は、生まれて初めてかもしれない。


「すべての命に感謝し、皆とこうして同じ食卓で過ごせることを幸せに思います。それでは、ご一緒にいただきます」


普段仏頂面だと思ってたが、その時のアイナは楽しそうに見え、その一言で朝食が開始された。


いつだって、何かがあれば弱気になって自暴自棄になるのが嫌で、常に「笑顔」を絶やさず「気丈(きじょう)」に振る舞おうとしていた。

だけどそんな気持ちとは裏腹に空回りして、また落ち込んでを繰り返す日々に、(いきどお)りと居心地の悪さを感じていた私に、ドーマは生きることの意味を教え、そしてミフィレンと出会い改めて感じたんだ。

諦めない「心」、何者にもめげない「強さ」や他人を信じ、共感しあい、分かち合う「愛」が何よりも「大事」で守らなきゃいけないものだってことが分かったんだ。


「いつもありがとうな。小さな絵描きさん」


賑やかな周りに打ち消されながら小さくそう呟くと、何かを感じたのか夢中に頬張(ほおば)っていた手を止め口元も拭かずに笑ったんだ。

その顔は素直に綺麗で、まるでこれまでの疲労が一瞬で消える「魔法」の様に私の「心」を満たしてくれた。


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