退院
今、俺は女の子の隣りに座っている。目線は女の子の手元にある算数の問題集だった。よく見て見ると、色々な問題があった。
例えば偶数や約数、三角形の面積、体積や容積、あと平均、まあとにかく色々だ、でも当然ながら俺はわかるが自分の小学生の時、こんな問題を5、6年でやっただろうか?振り返ってみても俺が小学生の頃はもっと簡単な問題が多かったような気がするが、まあ時代と共に色々と変わっていったんだな。
「ねえ!見てないで早く教えてよ、これ以外にもまだまだあるんだから」
と、文句をブチブチと言っている女の子の名前は深井あきというらしい。俺が椅子に座る前に向こうから自己紹介をしてきた、なんでも今やっている問題は春休みの宿題らしい。
そういえば俺こと天野真が意識が目覚めてから一週間ぐらいたつから3月25日ぐらいか、いつから春休みに入ったかわからんが宿題をやっているというのは偉いな、感心、感心。
そうして俺は、あきがわからないと言っているところを細かく丁寧に何度も繰り返し教えてあげた。そしてお互い集中していた為かふと図書室にある時計を見るととっくに12時を過ぎており時間は14時になっていた。
「え、やば14時じゃん、昼メシ、部屋におきっぱなしになってるんじゃないか」
うーん、看護師に色々怒られるかもしれないな、とりあえず急いで部屋に戻ろ。
「え、なに、どういうこと?」
「いや~、俺、実はさあ、この病院に入院してるんだよ、だからさ多分部屋に昼メシが運ばれてて、そのままだと思うんだよね」
「え、そうなの、てっきり誰かのお見舞いにきた子供だと思った!、えーとなんかごめん」
「とりあえず昼食べたらまたすぐここにくるよ、だからちょっとここで待ってて」
「うん、わかった!、でも早くしてね、なんか教えかたが上手いのかわからないけど、今、私凄い、やる気になってるから」
はいはいと軽く返事をしてそそくさと部屋を出て行った。
でもあきはお腹すかないのかな?と一瞬考えたが、宿題を教えている時に菓子パンの空き袋が無造作に置いてあったのを思い出した。おそらく俺が図書室に行く前にもう食べ終わっていたんだろう。
と、そうこう考えているうちに自分の病室に着いた。今更だが個室だ。何故なら意識不明で3ヶ月近くいる人間を共同の大部屋には入れられなかったらしい。でもこんな大病院で個室、大丈夫?と思ったが一番ランクが下らしい、それでも1日、5千円らしい、それが3ヶ月近く、うーん考えるだけで恐ろしい。そこはやはり両親に感謝したい。
「もう、どこ行ってたの、とっくにお昼過ぎてるわよ」
声に少し感情が漏れていた。
呆れた顔で目の前の女性の看護師はこちらを見ていた。
「いや~ちょっと色々あって、実は図書室で本を読んでたら夢中になっちゃて、気がついて今、急いで戻ってきたの」
「もう、しょうがないわねえ、今度から時間をまもりなさいよ、わかったの」
俺は素直に返事をし、看護師は食べ終わったらかたずけときなさい、と言い残し部屋を出て行った。
その後急いで食事を済ませ、図書室に向かった。
図書室に入り、あきと目線が合うとすかさず声をかけられた。
「おそーい、もっと早く来てよ、待ちくたびれてなんか疲れたわ」
いやいや、時間にしてみれば10分かかるかかからないぐらいだろう、このあきという女はいわゆるワガママというやつだろうか?いくら小学生だからってちょっとワガママぽいよな、でも俺からすればそんなことは全然、気にならない、むしろワガママをこれでもか!というほど出してくれた方がスッキリする。
「いや~ごめん、ちょっと遅くなっちゃて、じゃあ続きやろうか」
「なんかさ、もうやる気なくなっちゃった、今日はもういいかな、もの凄い、疲れたし」
いやいやいや、なにこの子、さすがにひどいでしょう、さっきのやる気は何だったのか、このあきという子はイマイチわからんな。でもあれかこういうふうに言ってるということは俺もお役ごめんということだろう。
「じゃあ今日の勉強はもう終わりにしようか、あきちゃんもそろそろ帰った方がいいんじゃない」
「うん、そうね勉強はもう終わりよ!、でもまだパパが迎えに来るまでここで待ってなくちゃいけないから、私はもうちょっとここにいるわ」
「そうなんだ、じゃあ俺はもう戻るわ、これからもしっかりと勉強した方がいいよ、じゃあね」
「ねえ!明日も今日と同じ時間にここに来てくれないからしら、また教えてよ」
「いや、教えるのは別にいいんだけど、明日もここにいるの?」
そしてあきから現在の状況を聞いた。なんでも母親が入院しているらしい、もう1ヶ月ぐらいになるそうだ。そんでもって春休み中は毎朝父親と一緒に病院に来て母親の様子を見てから父親は仕事に行くそうだ。そしてあきはこうして図書室で宿題をしていたらしい。そして夕方近くになったら父親が迎えに来て帰るという生活をしているらしい、話しを聞いていて俺は不安な気持ちが湧いてきてしまった。何故なら話しを聞いていると多分、そのあきの母親は結構な大病を患っているんじゃないだろうか、じゃなきゃこんなふうに父親が娘を病院に置いていくなんて、しないと思う。おそらく余命を宣告されているような気がするがまあ俺が深く考えても仕方ないしなるべく、あきには付き合ってあげよう。
その後は毎日、検査、そして空いた時間であきに勉強を教えてあげていた。
そして色々検査をした結果、身体的にはどこにも異常は見つからず、知能テストみたいことも色々やらされたが全く持って異常はなしと、言われ両親、妹共に喜んでいた。
そして気がつけばあっという間に退院の日を迎えることができた。
それと、あきのことだが急に姿を見せなくなってしまい、ちょっと心配なんだが俺が気にしてもどうすることもできないのでなんとかいい方向に進んでいることを祈ろう。
「真君、退院おめでとう、本当にどうなることか不安だったけどこうして元気になって、私は医師としてこれ以上ない喜びを感じているよ」
「真君、ちゃんとお父さんとお母さんの言うこと聞かないとダメよ、それと退院したからってまだ無理しちゃダメよ」
目の前には数十人いるだろうか、みんな嬉しそうな顔でこちらを見ていた。
「みなさん、大変お世話なりました、そしてありがとうございました」
俺に続き家族全員が頭を下げた。そして色々な人にお礼や挨拶に周り病院の入り口に向かって行った。
ふう、やっと退院できたな、しかしここまで長いような短いような、まあ、とにかくだ、やっとこれから俺のダラダラ、そして楽な生活を目指していけるぜ、善神ありがとう、と強い気持ちを込めて言ったのだった。