お金持ち
連休の2日目を迎えた、朝の7時、俺は目を覚ました。
今日は特に決まった予定はない為、母親に起こされる事もなく、自然と目が覚めた。
「ふうー、今日はなにするかな?」
俺は朝一の声を発した。
今日は本当に何をするのも自由だ!、なんて素晴らしいんだろうか、前世では休みの日といえばほとんど寝て過ごしていたような気がする、なんせ年齢を重ねて行くたびに転職を繰り返してきた為、当然、身体は若い時に比べて衰えてくる。
それに歳を重ねて行くたびに転職は厳しくなって行く、そして何とか仕事が見つかり、また一から色々と覚えるというのは本当にきつい!、まあ、そんなこんなでとにかくだ、休みは仕事の疲れを取る為、よく寝ていた。
だが、天野真として新たに転生してからは不思議と必要最低限の睡眠以外は寝る気にならないのだ、精神年齢は37のままなので前世からの考えもあり常に寝ていたいのだが、天野真の身体になってからはあんまりだらける気がしないのだ!、むしろ無理やりだらけている時もあるぐらいだ。
まあ、心と身体のバランスがあってないのかもしれないな、とりあえずなるようになるしかないだろうな。
その後、家族のみんなと朝食を済まし、俺は自分の部屋で出かける準備をしていた。
なんでも今日はみんなそれぞれ出かける予定があるらしく、父親と妹のリサは朝食を食べ終えると同時に出かけて行ってしまった。
母親も用事があるとの事であと少ししたら出かけるらしい、そして俺はというと家で一人でダラダラするのも暇なので出かけることにしたのであった。
基本的にどこに行こうかは決めてないが適当にブラブラしようと思う、今日は天気もいいし、少し動くと汗ばむぐらいの気温になりそうということでTシャツにハーフパンツそしてスニーカーという格好で大丈夫だろう!、そして準備を終え俺は家を出た。
「いやー、本当に今日は気持ちいい天気だな!、風が心地良い!」
愛用の自転車のペダルを漕ぎながらつぶやいた。
時間はまだ午前の8時30分ぐらいの為、車の交通量、そして歩いている人もまばらだ、まあ、休みの日の朝はこんなもんだろう。
さて、家を出たはいいが、とりあえずどこに行こうかな、まあ、まだ時間も早いし開いている店もそんなにないしな、そうだ!、前に両親が話していた商業施設に行ってみよう!、なんでも3年位前に出来てこの辺では一番、規模が大きいらしい。
場所はちょっと離れているが、俺は常々、行ってみたいと思っていた為、今日は意を決して行ってみよう!、場所と道順は事前に確認している為、問題ないと思う、問題があるとすれば距離が10キロ位あるのだ。
でも10キロ位ならゆっくり行っても2時間かからないだろう、それに今日は丸一日あるし、昼食代として母親から千円も貰ったし、すべてに置いて抜かりはない!。
そしてゆっくりと目的地に向かって行った。
途中の様々な建物や景色を楽しみながら進んでいると目の前に目的地の商業施設が見えてきた。
思っていたより時間はかからなかったな!、時間にして1時間30分位で着いた、これでも結構、ゆっくり来たんだけどな、まあ、とりあえず何とか着いた。
目の前に広がる商業施設は俺が想像していたよりかなり大きいんじゃあないだろうか?、ザックリだが東京ドーム二個分位の広さはあると思う。
メインのでかいスーパー、そしてそこから並ぶように様々な店が連なっている、レンタルショップ、大型家電量販店、ホームセンター、靴屋、など、とにかく凄い!、そして駐車場を挟んで反対側にはこれまた様々な飲食店が並んでいる、ハンバーガー、うどん屋、回転寿司、蕎麦屋、ファミレス、ラーメン屋、定食屋など、ここまで集まってると圧巻だな。
そして道路を挟んで反対側には大きい公園、バスケットコート、スケートボード、サッカー場、スポーツジム、などがあった。
というかここはなんなんだ?、凄すぎるだろ!、こんなに色々な施設が一つの場所に集まっているのは初めて見た!、ここまで集まっていたらだいたいの物は揃うだろうな、時間はまだ10時位なのに駐車場がもういっぱいになりつつあるな、それだけ人がいるってことか!、とそんな事を考えている場合ではなかった、30分位前から急にトイレに行きたくなってずっと我慢していたのだ、早くトイレを探さないと大変な事になってしまう。
その後、何とか無事にトイレを発見して今、俺は便座に座り一息ついていた、うーん、どうするかな?、というのもトイレの個室に入って、何とか一息ついていたら、ちょっとした棚の上に黒い長い財布が置いてあるのに気が付いた、そしておもむろに中を確認すると思わず驚いてしまった。
ざっと見る感じでは50万位あるんじゃあないだろうか?、それに数枚のクレジットカード、ゴールドやブラック色もある、それに電子マネー用のカードや銀行のカード、などなど相当、入ってるな!。
俺は悩んでいた、届けた方がいいとは思う、だが、数万円を取ってから届けてもバレないんじゃあないか!、もしくはこのまま貰ってしまおうか?、だってこんな所に忘れて置いていく方が悪いんじゃないのか?、俺はとっくに用は足し終わりいつでも出れる状態なのだが必死に悩んでいた。
数十分悩んだ末、俺はやっぱり届ける事にした、どこに届けようか悩んだが大型スーパーのトイレの個室にあったのでスーパーのサービスカウンターに届ける事にした。
「すいません!、トイレで財布を拾ったんですが?」
「はい!、落とし物ですね、ではこちらにお座りください」
サービスカウンターの受付の女性に促されて俺は席に座った、そして拾った場所、時間などを聞かれ最後に名前と住所と電話番号を聞かれ、手続きは終了した。
何でも、話しを聞いてみると落とし物は半年間、持ち主が現れない場合は処分される事、そして現金や財布、個人情報などが記載されている物は1ヶ月間、持ち主が現れない場合は警察に渡すらしい、そして現金や財布の場合は拾った人にお礼を渡す場合があるため住所と電話番号を聞くそうだ。
そして俺はスーパーの出口の側にあるベンチに座って黒い炭酸飲料を飲んでいた、なんというか、良いことをしたはずなのに何故か心は晴れない、色々な考えが頭の中を駆け巡っていた。
「ふうー、これ以上、考えても、むなしくなるだけだな!、気持ちを切り替えよう」
自分自身の気持ちを整理するため俺はつぶやいた。
俺がちゃんと届けた事によって財布の持ち主も助かるだろう!、善行を積んだと思えば良いじゃないか、よし、この事はもう終わり!。
でも前世の俺だったらまあ、迷わず届けないで自分の物にしていただろうな、そういう意味じゃあ少しは真人間に近づいたってことかもな!。
そして俺は商業施設を色々と回ろうと思いベンチから立ち上がった時、後ろから声がかかった。
「あ、良かった!、まだ近くにいてくれて、今、財布の持ち主が見つかったからちょっとまたサービスカウンターの方に来て貰っていいかしら?」
「そうですか、わかりました。」
先程のサービスカウンターの女性が声をかけてきた為、俺は気のない返事で言った。
そしてサービスカウンターに着くと五、六十代に見える夫婦の姿があった。
「こちらの少年が財布を先程、サービスカウンターに届けてくれました!」
「おー、君が私の財布を届けてくれたのか!、本当に助かったよ!、本当にありがとう」
「私の方からもお礼を申し上げます、本当にありがとうございました」
サービスカウンターの女性が夫婦に説明すると、その夫婦は俺に向かって頭を下げてきた。
「いやー、当然の事をしたまでですよ!、本当に良かったです」
俺は子供らしくないかな?、と思いつつもそう返した。
その後、簡単な手続きを済ませ、財布の持ち主である男性に是非とも昼食をおごらせて欲しいと頼まれ、断るのも悪いのでお言葉に甘える事にした、幸いな事に食べる場所はいっぱいあるしね!。
こうしてよく知らない夫婦と昼食を共にする事になったのであった。




