悪の大幹部ですけど戦隊レッドが自殺した様です
道行く人々は悲鳴をあげ、私の一挙手一投足に恐怖する。
「フハハハ! 愚かな人間共め、今こそこの私ブラッディスカル様の前にひれ伏すのだー!」
今日も今日とて与えられた任務を遂行する。
そう、私こそ悪の化身ブラッディスカル、所謂悪の大幹部である。
真っ赤な髑髏の顔、何気に最近になってこの新しく作った顔は気に入っている。先日、日本ヴィラン連合が発行した付き合いたい悪の幹部ベスト100にて、15位に食い込む位にはイケてるようだ。ちなみに躰は蒼い炎で形成されており、自慢ではないが、憎き戦隊共の物理攻撃を8割近く軽減できる。
目の前の私に恐れ慄き、尻もちを付いた女性を右手で捕まえへ、胸ぐらを掴むと女性は叫び声を上げ始めた。
「助けてー! アニマルレンジャー!」
いいぞ、もっと叫ぶがいい。そうでなくは面白くない。
私は左手に球体状の蒼い炎を形成し女性の顔に近づけた瞬間、聞き覚えのあるフレーズが耳に飛び込んできた。
「待てぇーいッ!」
「何奴!?」
これは一つの職業病である。後ろにいつもの奴等がいる事は百も承知。私は一瞬溜め、勢いよく後ろに振り向いた。
「大海を進む蒼き稲妻! シャチブルー!」
「豊かな草原を守る緑の守護者! ガゼルグリーン!」
「白き大空の勇者、イーグルホワイト……」
「「「アニマルレンジャー参上!」」」
ブルーが一歩前に出るとオーバーアクションで左手を前に突き出す。
「さぁ、お嬢さん逃げるんだ!」
「ありがとー!」
「さぁ! ブラッディスカル我々と勝負だ!」
私は知らぬうちに手に込めた力がなくなっていた。
彼らの姿に釘付けになってしまっていた。
彼らは顔のデザインこそいつもの動物をモチーフにした目の辺りに黒いバイザーが付いた顔全体を覆うマスクを付けているが、何故か喪服を着込んでいたからだ。イーグルホワイトは両手で遺影を持っており、その遺影に写っていたのは宿敵レオレッドであった。
「え、ちょちょちょっと待って!? えっレッドは!? それ遺影!?」
ブルーがファイティングポーズを取り私に敵意を向けてくる。
「いやいや、おかしいじゃん、100歩譲って喪服はわかる。うん、何で顔面だけレンジャーで来た。しかも全員色黒くしたら戦隊のアイデンティティ自ら殺してるじゃん。子供見たら「え? 誰が誰?」ってなるよ。もー! 素になっちゃうよ! これもう悪役の仮面被れないわー。だってさ、雰囲気最悪じゃん。ファイティングポーズとってるのもブルーだけだもん」
「えっと一応、ヒーローなんで……顔だけでも付けていこうって話になって……」
いつもは甲高い声を発しているグリーンがテンション低めに喋りだし、何故か申し訳なさそうに頭を軽く下げる。
「つーか、ホワイト学ランじゃん! 君学生だったの!?」
「アッハイ……レッドは兄です。レッド兄さんの事ブルー虐めてたんすよ……」
ホワイトはブルーの方をずっと見つめている。バイザーのせいでわからないが睨みつけているのだろう。
空気に耐えきれなくなったのか、たった一人ファイティングポーズをとっていたブルーが構えを解くと、ホワイトの方に向き直った。
「だから言ってるじゃんホワイト、そんなんじゃないって。俺はただレッドにヒーローとしての自覚を持ってほしかっただけだって」
「お前が無駄に兄さんの期待必要以上に煽ったからだろうが!!」
ホワイトがブルーに掴みかかろうとした為、私は彼らの間に割って入る。
「あー! 落ち着いて落ち着いて! 仲間割れはやめよう! いつ亡くなったの!?」
「一昨日です……。釣りに出かけるって湖の畔で練炭自殺を……」
ホワイトが涙を拭う動作をしている。きっと彼の顔は今涙でグシャグシャになっている事だろう。
イーグルホワイトは膝から崩れ落ちる様にして地面に突っ伏した。
「最悪、イーグルホワイト抜きで良いんで闘ってはもらえないでしょうか?」
ブルーが手を合わせながら私に懇願してくる。
「えー……このタイミングでその話する? っていうか君たちの必殺技って全部レッド主体じゃなかった? 使えなくない?」
「いや、その辺は努力でカバーするんで大丈夫です。1日剣の素振り1000回位やってるんで。やる気だったら誰にも負けません!」
グリーンがグッとガッツポーズしながらアピールしてきた。
「そんな努力でカバーできるものじゃないと思うんだけど……それ以前に喪服だし……汚しちゃいかんでしょ」
「じゃ、わかりました! 最悪パンイチで良いんでお願いします!」
半ギレ気味のブルーが再びファイティングポーズを取る。彼はどんだけ戦いたいんだろうか。そりゃ私も仕事である以上断る事はできない。しかし普通に考えて、日時と場所を決めて後日改めて戦うという段取りとったほうが良いのではないだろうか?
「ホワイト! いつまでメソメソしているんだ!」
「フグッ! レッド兄さ〜ん! どうしてぇ! どうしてぇ!!」
「しかし、20年近く悪の幹部やってるけど、まさかレッドが自殺とは……。ここだけの話なんだけど、実は1ヶ月前最寄りのド○キで1人用のテントや七輪と練炭とチャッカマン買ってるレッド君を見かけてさ。まぁ、こっちもオフだったから話かけようか迷ったけど、あの時話かけてたら変わってたのかなって」
「ちょっとスカルさん! あんまりじゃないですか!?」
グリーンが抗議の声を上げる。
「いや、申し訳ない! そんなつもりは!」
「うるせぇ! 元はと言えばブルー! お前が悪いんだぁ! あの世で兄さんに詫び続けろぉ!」
地面に突っ伏していたホワイトの手にはいつの間にか鷹の紋章が刻印された白い刃のナイフが握られていた。
ホワイトは立ち上がり、勢いそのままブルーの腹部にナイフを突き立てた。
「うぐっ!?」
突き立てたられたナイフは深々と急所に刺さり、ブルーは仰向けに倒れ動かなくなった。
「うっわ……がっつりナイフ急所に刺さったところ見ちゃった……。トラウマになるわ〜……。しかもガッツリ私怨っぽいしぃ」
「ハハハハハ、仇は取ったよ兄さん!」
泣きながら笑ってる……。アカン人だよこれ……。
蒼色のブルーのスーツが真紅に染まっていく。
あっヤバい……吐きそう。絶対夢に出る。
「な、なんてこった……! 仲間を刺し殺すなんてどうかしてる! 俺は今日限りで抜けさせてもらうからな!」
グリーンはマスクを脱ぎ捨てると、何処かへと走り去ってしまった。
あれってそのまま脱着可能なんだ。てっきり変身解除しないと脱げないものかと……。
目の前には亡骸となったシャチブルー。片や涙を浮かべ虚空を眺めながら笑い続けるイーグルホワイト。
私は無意識に彼の肩に手を置いていた。
「あの……もし良ければうちの組織に来る? 悪落ち制度っていうプログラムがあるんだ。デザインがだいぶ悪趣味になるけど、君さえ良ければ……」
私の誘いに彼はニヤけ面のまま涙を流し、彼は徐に頷いた。
後に、彼は名をカオスパニッシャーと名を改め、全世界を恐怖に貶める漆黒の学ランを着用し鷹の顔をした破壊者として君臨するのだが、これはまた別の話である。