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天の花  作者: 東亭和子
9/15

 いつの頃からだろうか?

 気づいたらアツキを目で追っていた。

 見つめていた。

 そしてアツキもトオイを見つめるようになった。

 二人は自然と近づいた。

 やがて手を繋ぐようになり、抱き合うようになった。

 その想いは禁忌だ。

 天上に住むものにとって、それは罪だ。

 それでも、この想いを止めることは出来なかった。

 二人、一緒に。

 どこまでも。


「いいのかい?」

「ええ、いいの。

 どこまでも一緒にいたいの」

 もう、誰も二人の邪魔は出来ない。

 そうしてアツキは新しい命を宿し、仲間を殺めた。

 天上の神々はそのことに気づき、二人を地上に落とした。

 天の花を渡して。

 これは罪の証。地上に咲き続けている間は天には帰れない、と。

 

 気がついたら一人だった。

 手には一本の曼珠紗華があった。

 傍には誰もいなかった。

「アツキ!」

 返事は返ってこない。

 トオイはアツキを探した。

 探して、探して、それでも見つからなかった。

「どうして!」

 引き離されてしまった。

 二人どこまでも落ちていくと決めたのに!

 きっと、心細い思いをしているのだろう。

 早く、見つけなければ。

 トオイはアツキを探し続けた。

 もう、どのくらい時が経ったのか分からなかった。

 トオイは彷徨い、探し続けた。

 永遠に続くこの苦しみは罰。

 アツキを失って初めてトオイは寂しさを知った。

 そしていつしか国は荒れ、戦が始まっていた。

 それでもアツキは見つからなかった。


 トオイは彷徨い、ある村に来た。

 落ち武者達にまぎれていた。

 落ち武者達は強奪を始めていた。

 トオイは強奪に関心などなく、いつものようにアツキを探していた。

 やがてトオイはある屋敷にたどり着いた。

 そこにはたくさんの曼珠紗華が咲いていた。

 これは…

 曼珠紗華は罪の証。

 もしかしてここにアツキがいるのでは?

 トオイはその屋敷に入った。


 屋敷の中は強奪の途中だった。

 屋敷の者が隅で怯えている。

 トオイはその様子を目で捉えたが、すぐに視線をそらした。

 そうして奥を見る。

 屋敷の者が奥を気にしている。

 何かがあるのだ。

 一体何が?

 トオイは奥へと向かった。

「奥へは…!」

 屋敷の主人らしき男が叫ぶ。

 トオイは立ち止まり、主人を見た。

「奥には行ってはなりませぬ。

 奥には天女が…!」

 怯えた顔で主人は告げた。

 それを聞いて、トオイは奥に走った。


 そこには、座敷牢があった。

 人を閉じ込めておく場所が。

 座敷牢の中には女がいた。

「…アツキ」

 トオイは格子にしがみ付いて名前を呼んだ。

 座敷牢の中の女が振り向く。

「トオイ!」

 やっと見つけた!

 二人は牢越しに手を取り合い、頬を寄せた。

「ずっと待っていたの。ずっと」

 アツキは涙を流した。

「遅くなって、ごめん」

 もう、離れない。

 これからはずっと一緒にいよう。

 トオイの長い彷徨は終わりを告げた。


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