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いつの頃からだろうか?
気づいたらアツキを目で追っていた。
見つめていた。
そしてアツキもトオイを見つめるようになった。
二人は自然と近づいた。
やがて手を繋ぐようになり、抱き合うようになった。
その想いは禁忌だ。
天上に住むものにとって、それは罪だ。
それでも、この想いを止めることは出来なかった。
二人、一緒に。
どこまでも。
「いいのかい?」
「ええ、いいの。
どこまでも一緒にいたいの」
もう、誰も二人の邪魔は出来ない。
そうしてアツキは新しい命を宿し、仲間を殺めた。
天上の神々はそのことに気づき、二人を地上に落とした。
天の花を渡して。
これは罪の証。地上に咲き続けている間は天には帰れない、と。
気がついたら一人だった。
手には一本の曼珠紗華があった。
傍には誰もいなかった。
「アツキ!」
返事は返ってこない。
トオイはアツキを探した。
探して、探して、それでも見つからなかった。
「どうして!」
引き離されてしまった。
二人どこまでも落ちていくと決めたのに!
きっと、心細い思いをしているのだろう。
早く、見つけなければ。
トオイはアツキを探し続けた。
もう、どのくらい時が経ったのか分からなかった。
トオイは彷徨い、探し続けた。
永遠に続くこの苦しみは罰。
アツキを失って初めてトオイは寂しさを知った。
そしていつしか国は荒れ、戦が始まっていた。
それでもアツキは見つからなかった。
トオイは彷徨い、ある村に来た。
落ち武者達にまぎれていた。
落ち武者達は強奪を始めていた。
トオイは強奪に関心などなく、いつものようにアツキを探していた。
やがてトオイはある屋敷にたどり着いた。
そこにはたくさんの曼珠紗華が咲いていた。
これは…
曼珠紗華は罪の証。
もしかしてここにアツキがいるのでは?
トオイはその屋敷に入った。
屋敷の中は強奪の途中だった。
屋敷の者が隅で怯えている。
トオイはその様子を目で捉えたが、すぐに視線をそらした。
そうして奥を見る。
屋敷の者が奥を気にしている。
何かがあるのだ。
一体何が?
トオイは奥へと向かった。
「奥へは…!」
屋敷の主人らしき男が叫ぶ。
トオイは立ち止まり、主人を見た。
「奥には行ってはなりませぬ。
奥には天女が…!」
怯えた顔で主人は告げた。
それを聞いて、トオイは奥に走った。
そこには、座敷牢があった。
人を閉じ込めておく場所が。
座敷牢の中には女がいた。
「…アツキ」
トオイは格子にしがみ付いて名前を呼んだ。
座敷牢の中の女が振り向く。
「トオイ!」
やっと見つけた!
二人は牢越しに手を取り合い、頬を寄せた。
「ずっと待っていたの。ずっと」
アツキは涙を流した。
「遅くなって、ごめん」
もう、離れない。
これからはずっと一緒にいよう。
トオイの長い彷徨は終わりを告げた。




