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離れでトオイに出逢った舞子は、母屋に戻るなり熱を出した。
雨に濡れたことと、トオイに出逢ったことに対する興奮だ。
舞子は布団にもぐりトオイのことを考えた。
ずっと、考えていた。
トオイのことだけを。
そして、夢を見た。
私は彼を愛した。
それは、禁忌だった。
この天上の世界では禁忌だった。
しかし、私達はお互いを求めることを止めることは出来なかった。
私は彼を求め、彼は私を求めた。
共に落ちていくと決めた。
そうして私はもう一つ、罪を犯した。
仲間を殺めた。
だから私達は地上に落とされた。
目覚めると私は一人で地上にいた。
傍には誰もいなかった。
「トオイ?」
私は彼の名前を呼んだ。
だが返事はなかった。
そして私は気づいた。
私はたくさんの曼珠紗華の中に座っていたことに。
この花は天の花。
私たちの罪の証。
この花が咲き乱れているうちは、許されることはない。
そう言われて天上を追放された。
「どうしたのだい?」
一人の男が声をかけてきた。
私は振り向いた。
男は私の美しさに言葉をなくしたようだった。
私は何かを言おうとしたが、言葉が出なかった。
そして私は気を失った。
目覚めると布団に横たわっていた。
「目覚めたかい?気分は?」
「ええ、平気です」
起きようとする私を男は止めた。
「もう少し、横になっていればいい」
男は言った。
私は男の言うとおりに横になることにした。
男は私を世話してくれた。
親切にしてくれた。
男はこの村の薬師だという。
だから身重の私を気遣ってくれた。
私は男の優しさに甘えた。
ここはとても心地よく、安らいだ。
ただ、トオイを忘れることは出来なかった。
探すことも出来なかった。
私は永遠の時間を失っていたから、彼を探す時間がなかった。
だから私はここで待つことにした。
男の好意に付け込み、甘えて、トオイを待った。
例え死んでも、私はまたここに産まれてくる。
それは罰。
天上に帰ることは出来ないという罰。
だから、私は待つのだ。トオイが見つけてくれるまで。
ずっと、ずっと、待つのだ。
舞子は目が覚めた。
まだ体が重い。
熱は下がっていないようだった。
「思い出した」
全て、思い出した。
私がトオイを求める訳。
夢に見る訳を。
「トオイ、あなたに会いたい」
舞子は熱にうなされながら、トオイを思った。




