表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天の花  作者: 東亭和子
6/15

 離れでトオイに出逢った舞子は、母屋に戻るなり熱を出した。

 雨に濡れたことと、トオイに出逢ったことに対する興奮だ。

 舞子は布団にもぐりトオイのことを考えた。

 ずっと、考えていた。

 トオイのことだけを。

 そして、夢を見た。


 私は彼を愛した。

 それは、禁忌だった。

 この天上の世界では禁忌だった。

 しかし、私達はお互いを求めることを止めることは出来なかった。

 私は彼を求め、彼は私を求めた。

 共に落ちていくと決めた。

 そうして私はもう一つ、罪を犯した。

 仲間を殺めた。

 だから私達は地上に落とされた。


 目覚めると私は一人で地上にいた。

 傍には誰もいなかった。

「トオイ?」

 私は彼の名前を呼んだ。

 だが返事はなかった。

 そして私は気づいた。

 私はたくさんの曼珠紗華の中に座っていたことに。

 この花は天の花。 

 私たちの罪の証。

 この花が咲き乱れているうちは、許されることはない。

 そう言われて天上を追放された。


「どうしたのだい?」

 一人の男が声をかけてきた。

 私は振り向いた。

 男は私の美しさに言葉をなくしたようだった。

 私は何かを言おうとしたが、言葉が出なかった。

 そして私は気を失った。

 目覚めると布団に横たわっていた。

「目覚めたかい?気分は?」

「ええ、平気です」

 起きようとする私を男は止めた。

「もう少し、横になっていればいい」

 男は言った。

 私は男の言うとおりに横になることにした。

 男は私を世話してくれた。

 親切にしてくれた。

 男はこの村の薬師だという。

 だから身重の私を気遣ってくれた。

 私は男の優しさに甘えた。

 ここはとても心地よく、安らいだ。

 ただ、トオイを忘れることは出来なかった。

 探すことも出来なかった。

 私は永遠の時間を失っていたから、彼を探す時間がなかった。

 だから私はここで待つことにした。

 男の好意に付け込み、甘えて、トオイを待った。

 例え死んでも、私はまたここに産まれてくる。

 それは罰。

 天上に帰ることは出来ないという罰。

 だから、私は待つのだ。トオイが見つけてくれるまで。

 ずっと、ずっと、待つのだ。


 舞子は目が覚めた。

 まだ体が重い。

 熱は下がっていないようだった。

「思い出した」

 全て、思い出した。

 私がトオイを求める訳。

 夢に見る訳を。

「トオイ、あなたに会いたい」

 舞子は熱にうなされながら、トオイを思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ