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「まあ、綺麗ね」
舞子は父と母に向かって微笑んだ。
今日、舞子は正志と結婚する。
「舞子、私達はいつも傍にいるからね」
父は舞子に向かって言った。
舞子を守れなかった。
助けてやれなかった。
だから、今度は助けてやるのだ。
舞子が辛いと思った記憶が甦らないように。
「綺麗だよ」
正志は舞子に向かって手を差し伸べた。
「ありがとう」
舞子は正志の手を取った。
これから二人、幸せになるのだ。
「おめでとう!」
家族が、友達が祝福してくれる。
舞子は嬉しかった。
「ありがとう」
皆が笑顔で、幸せがあふれていた。
この先にあるのは幸せだ。
舞子は正志の手を強く握った。
「幸せにする。
ずっと傍にいるから」
正志は舞子の手を握りかえし力強く言った。
舞子は正志に微笑み返し、寄り添った。
ただ、少し物足りなかった。
それがなぜなのか、舞子には分からなかった。
「正志兄様はそれで良いの?」
清子が正志に問いかけた。
「ああ、かまわない」
ずっと、舞子が欲しかった。
舞子が傍にいてくれるなら、それだけでいい。
「…いつか姉様が思い出したらどうするの?」
「そうだね。そうなったら困るな」
正志は微笑んだ。
「全然困ったように見えないわ」
「はは、そうかい?」
「兄様が幸せなら、別にいいわ」
清子は幸せそうな舞子を見た。
一度は許せないと思った。
でも正志兄様がいいと言うのなら、いいと思った。
「姉様、幸せになってね」
清子がそう言うと舞子は微笑んで手を振った。
「大丈夫か、アツキ」
トオイは床に臥せっているアツキを心配そうに見た。
「大丈夫じゃないみたい。
ねぇ、私が死んだら悲しい?」
「ああ、悲しいよ」
「嘘よ。あなたはきっと、舞子の元へ行くわ。
もう一人の私の元へ。
そうでしょう?」
「…」
「ふふっ、いいわ。許してあげる。
私が死んだら、舞子の元へ行ってもいいわ。
本当はお婆ちゃんになっても、ずっと傍にいたかったけれど、無理みたいだから。
結局、私は舞子に負けるのね。
悔しいなぁ」
「アツキ」
トオイは透子の頬に触れた。
熱が高いようで、顔が熱い。
「透子って呼んで」
透子は目を閉じて、願った。
「透子、愛しているよ」
透子は満足そうに微笑んだ。
「ええ、私もよ。
ずっと、あなたを愛しているわ」
透子はトオイをじっと見つめ、静かに言った。
「またね」
「ああ、ずっとここで待っているよ」
トオイは優しく透子の頬を撫でた。




