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いつも見る夢は、この世とは思えないほど清らかだった。
たくさんの曼珠紗華が足元で咲き誇っていて、視界を赤く染めていた。
そこを私は歩いていた。
大勢の仲間と共に暮らしていた。
そして、いつも隣には彼がいた。
二人で微笑み、並んで歩いた。
「アツキ」
柔らかく私を呼ぶ声。
私を抱きしめる逞しい体。
私はとても幸せだった。
目が覚める。そこはいつもの自分の部屋だった。
また、あの夢を見ていたようだ。
いつからか分からないが、赤く咲く花の中を歩く夢を見るようになった。
その夢は心地よく、懐かしさを伴っていた。
「ん~」
舞子は伸びをして、布団から出る。
もうすぐ女学校へ行く時間だ。
着替えをして居間へと急ぐ。
「母様、おはようございます」
居間では母と妹二人がすでに朝食をとっていた。
「おはよう、早くお食べなさい」
父はもういなかった。
「父様は?」
「今日は会議があるとかで、早めに出かけましたよ。
舞子さん、今日は早めに帰ってきてくださいね。
お話がありますから」
「分かりました」
舞子は神妙に頷いた。
玄関の前では車が待っていた。
そこに妹たちと乗り込む。
「母様のお話って何かな?」
二つ下の清子が興味津々といった感じで尋ねる。
「さあ、何かしらね?」
「姉様、何か悪いことでもしたの?」
四つ下の頼子が楽しそうに言う。
「まさか!あなた達じゃあるまいし、何もしてないわよ」
実際、舞子は優等生だ。
女学校でも成績は優秀で、母の自慢なのだ。
一方妹達は、自由奔放に生きていた。
母が姉の舞子に期待をしていることを知っているからだ。
車が女学校に着く。
車を降りて、舞子は妹達と別れた。
それぞれの教室に向かう。
「おはようございます、舞子さん」
「おはようございます、千春さん」
二人顔を見合わせて笑った。
彼女は舞子の一番の友達で、いつも行動を共にしていた。
「今日一緒に劇場に行かない?
新作の劇がやるの」
「ごめんなさい、今日はちょっと無理なの。
また、今度でよろしいかしら?」
「ええ、かまわないけど。
用事なの?めずらしいのね」
「そうなの。母様が話があるから早く帰りなさい、と」
「まあ、ではそろそろあの話ではないの?」
「…やっぱり、そう思う?」
「ええ、時期的にも近いし」
舞子は大きなため息をついた。
「そんなに嫌なの?」
「千春さんは嫌ではないの?」
「仕方がないわ。
それが世の中なのだもの」
千春はもう諦めた、という顔で言った。
きっと、母様の話はお見合いのことだろう、と舞子は考えていた。
女学校のほとんどの人には許嫁がいる。
千春もこの前婚約したばかりだった。
「明日、帰りにカフェに行ってお話をしましょうね」
千春は楽しそうに言った。




