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なごりはつきませんが

 なんだかんだで始まった、遊井名田家別荘でのバカンスも、余すところあと一日となった。


「なんだかあっという間ねー、ここに来たのが昨日のことのよう」

 那波が隣のバルコニーから、ほわんとしたかんじで言う。

「ホントね。でも、楽しかった! これも、那波が誘ってくれたからよ。ありがとう」

「ううん、もとはと言えば、アスラくんのお姉様たちのおかげよね」

「そういえばそうね。じゃあ、来年はぜひお誘いしなくちゃね」

「ふふ、恭ちゃんたら、来年も来るつもりでいるの? 」


 那波に指摘されて、「あ」と、思い出す。

 そうだった、ここは遊井名田くん家の別荘だった。

 うーん、でもねー、本気でねー、ホントにねー。

「ええい、決めた! 来年も使わせてもらえないか、交渉する! 」

「え? 」

 驚く那波に、こぶしを天に突き上げて言う私。


「じゃあ、俺も一緒にお願いしに行ってあげるよ」

 部屋の中から声がして振り向くと、ティカップを持った一直さんが、窓に寄りかかりながら笑っていた。



 今日は最後の晩餐? と言うことで、遊井名田家では、いつもソラ・コーポレーションが飲み会でするような、立食パーティを用意してくれていた。

 なんだかなー、そつがなさ過ぎるわよね、このあたり。


 で、最初から、どうにも腑に落ちない事があったのよね。この際だから、遊井名田くんにお願いする前に、そっちを先に解決することにした。


 それは、末山さん。

 ここへ来るのは皆初めてだって言うんだけど、どうやら末山さんってMR.ブラウンとお知り合いのようなの。

 不思議だった私は、最後になって末山さんに直接聞いてみた。

「末山さんって、MR.ブラウンとお知り合いなの? 」

「え? ええと」

 なぜか末山さんは答えに窮している。

 とそこへ、いつものごとくやって来た加福さんが口を挟む。

「あれ、蔵木さん知らないの? 末山家は遊井名田家と交流があるじゃん」

 家同士が知り合いなのか。へえー。

 じゃあ末山さんと遊井名田くんもお知り合い? けど、2人ともそんなそぶり、ぜんぜん見せないし。

「あ、そうか、蔵木さん。末山のファーストネーム知らないんだ」

「末山さんの名前? 」

 えーと、なんでファーストネームが関係するんだろう。

 あれ、でも。

 末山さんの下の名前って、聞いたことないかも。すると、加福さんがちょっと笑って言う。

「あのさ、こいつ騒がれるのが嫌だから、あんまり自分では言わないんだよね」

「?」

 不思議そうにする私に、末山さんが「おい」と、制するのも聞かず。

「リオンって知ってるよね」

「リオンって、あの、泣く子も黙る超有名ゲームを発売している、あの、大企業のリオン? 」

「そ、末山はね、ファーストネーム、りおんっていうの。末山 りおん」

「え? 」

 まつやま りおん…、それって。

「ええーーー!? 」

「コイツはそこの御曹司だよ」


 なぜか嬉しそうに言う加福さんを、キッと睨み付けた末山さんが、負けじと言う感じで言う。

「それならお前はどうなんだ。蔵木さん、加福の実家は古代舞踊の家元なんですよ」

「わあ~、やめてえ~」


 頭を抱える加福さんに後で聞いた所によると。

 加福さんのご先祖はもともと考古学を研究されていたらしいのだけど、その一人が、石器時代にさかのぼるほど昔に、天変地異を鎮めるための踊りのようなものがあったことを発見したのだそうだ。

 で、加福さんのおじいさんのおじいさんの、そのまたおじいさんあたりの人が、その踊りを再現してアレンジして、今に伝えたのが加福流古代舞なんですって。


「おふたりとも、すごいバックボーンがあるのね。けど、なんでそんな人が」

 と言いかけたところで、人にはそれぞれ事情があるわよね、と口をつぐんだんだけど。


 加福さんが手を振って笑いながら言う。

「やーだよー。そりゃあいつかは家に入らなきゃならないんだろうけど。小さい頃から踊り踊りばっかりで、俺ってこんなにカッコイイのに、モテる暇もなかったんだもん。会社に入って、可愛い子にモテたいじゃない。青春したいじゃなーい。ね? 」

 最後の、ね? は末山さんに問いかけた加福さんだったが、当の末山さんは憮然としながら言い返す。

「俺はお前とは違う。実家の会社には、なんでかわからないが俺の名前がついているが、あとを次ぐのは大勢いる兄たちだし、俺はもともと学校を卒業したら、自分できちんと働きたかったんだ」

 へえー、さすがは真面目な末山さんね。


「で、うちに入ったのはなんで? 」

「採用試験は、それこそ何十社も受けたんだが、面接で俺の名前を聞いて、手のひらを返したようにペコペコしてこなかったのが、うちと、時渡社長のところだけだったんだ」

「あ、俺も俺も。古代舞踏の家元だってわかると、途端に、おおーって尊敬のまなざしに変わるんだよねー、まいっちゃう」

 加福さんもそんな風に言い出す。


 私は何だか可笑しくなった。やっぱりうちって世間の常識とはちょっとかけ離れた会社なのね。あ、時渡社長のところも。

「あ、でも時渡社長の会社には入る気なかったの? 」

「俺は時渡社長のところは、不採用だったんだ。何だかその理由が、真面目すぎるとか」

「えー? ハハハ時渡社長らしーい。俺は採用だったよー。けどさ、時渡社長と俺って、なんかキャラかぶっちゃいそうじゃない? だからやめたんだよねー。で、こっち。空社長にそう言ったら、大爆笑されちゃったよ」


 ちょっと色々あぜんなんですけど。

 時渡社長ってば、末山さんは真面目すぎて不採用? どんな基準よそれ。で、加福さんも加福さんよ。キャラかぶるからやーめたって。

 まあいいか。こんな人たちがいるから、こんなに面白い会社なんだろうから。


 でも、謎はとけた! 

 末山さんも加福さんも、ここの別荘を初めて見たとき、庶民の私や甚大やリリーみたいに、ひぇーーーって感じで驚いてなかったのよね。

 それもそのはず。ふたりとも、今までおくびにも出さなかったけど、小市民じゃなかったんだー、納得。



「そう言えば一直さんも、こんなすごい別荘見ても、全然驚かないわよね」

 そんなことがあった後、遊井名田くんに来年の事をお願いに行く途中、ふと気づいて聞いてみた。

「え? ああ、俺の家は大富豪とかじゃないけど」

「うん」

「小さい頃は、よく、あの王宮で遊んでたからね」

「あの王宮? 」

「そう、恭の誕生日に行った」

「あ! あの異次元のお城?! 」

 思い出した! そう言えば私の誕生日にそんなところへ行ったわよね(異界シリーズ「バースデーには異界で夢を」参照)。

 そうよね、あんなすごいお城でしょっちゅう遊んでたんだったら、ここの別荘は普通の家の感覚よねー。こっちも妙に納得した。



 その後、遊井名田くんに交渉したんだけどね、やっぱり思惑通り、クールに一言。

「かまいませんよ」だった。




 那波のお誘いから始まった夕日を愛でるツアーも最終日。

 遊井名田家から、またまた贈り物があったのは、お腹も満たされて、そろそろ別腹のスイーツに手が伸び始めた頃。


 ヒュ~~~~

「オバケが出そうな音ね、なに? 」とロマンティックのかけらもない言い方で、音のした方を向いたとたん。


 ドオーーーーン!!


「うわあー! 」

 それは大輪の花を咲かせたような、打ち上げ花火だった。

 ドォン ドォン ドーン! 

 そのあとも、続けざまに打ち上がる見事な花火。どうやらゴルフ場のあるあたりで打ち上げているらしい。

「「たまやー! 」」

 時渡社長と加福さんの、似たものコンビが声を上げる。

「かぎやー、っていうのもあるらしいよ」

 と、空社長。

 そのあとも、かなりの数の花火があがる。

 バンバンと連続していた花火が止んで、しばらくたった頃。

 ヒューーーウ…、と高く高く、どこまで行くんだろうと上がった火玉が消えて。

 ドーーーーーーーーーーーン

 一瞬、空が真っ白に染まったかと思うほどおおきな大輪が、花を咲かせた。

 それが消えてしまっても、皆、しばらく黙って余韻に浸っている。


「素敵な夏休みだったー。ありがと、那波」

「どう致しまして、って私は提案しただけ」

 花火が消えた後は、星がさっきより輝いているように見える。このあたりは空気が澄んでいるためか、夕日も綺麗だけど、星もたくさん見えるの。


「あ…」

 一直さんの横に並んで、海を見下ろす柵のあたりで改めて星空を眺めていたとき、珍しいものを発見した。

「どうしたの? 」

「見て。ペンタグラム星座の真ん中に月がすっぽり入ってるわ」

「本当だ」

 星をかたどった誰もが知るペンタグラム星座。いつもは真ん中に小さな星があるのだけれど、今日はそこが月の通り道になっているのか、真ん中には、ほとんど満月に近い月があった。


「運が良いわね。月がペンタグラムの中心軌道を通るのは、90年に1度」

 いつの間にか隣に来ていたフローラが言う。すると、そのまた横に立ったリリーが嬉しそうに言った。

「ほんと? じゃあ次も絶対一緒に見ましょうね、お姉様。長生きしなきゃ! 私は、えーと、100いくつかしら…」

 ポカンとしていた周りの皆が、いっせいに笑い出す。

「えー、なにー」

 と、リリーが聞いて回るのに誰も答えず、あたりは幸せな笑い声に包まれていた。





〔エピローグ〕


「なんとか年内に間に合ったわね」

 夕日のフォトコンテストツアーから早4ヶ月。

 もう今年のカレンダーも最後の一枚となった、12月のある日。

 ようやく12階に、念願の簡易キッチンが取り付けられた。


 と言うのも、コンテストの締め切りは8月いっぱいだったんだけど、その後の審査期間が結構長くて、受賞者が決まったのが10月の終わり。

 授賞式が11月、と、何だかどんどん日にちが過ぎていたのよね。


 で、結果はと言うと。


 奇跡のグリーンフラッシュは撮影出来たんだけど、やはり世界は広い。あのとき参加した人のなかでも、最高は準優勝だった。

 けど、準優勝とは言え、賞金はかなりのもの。

「遊井名田のおかげでいい写真が撮れたよ、ありがとう」

 と、その人は賞金をすべて寄付すると言ってくれたの。太っ腹ー。


 でもね。

 賞は大きなものばかりじゃない! 

 一直さんが撮った、私の後ろ姿が入っている作品が、「最愛の人への贈り物賞」に。(恥ずかしかったけど、うれしい)

 それから。

 加福さんと、時渡社長は、「審査員特別賞」に。

 あとでよくよく聞いてみると、この賞は、かなりユニークな視点で捉えられた作品に贈られたものなんですって。ここでも2人はキャラがかぶってしまったわね。


 なので、皆の賞金を公平に分配して、キッチンの費用にさせて頂きました~。



 それからというもの、お茶くみの腕をどんどん上げる遊井名田くんは、私が忙しくて手が回らないときは、3時のお茶を入れに来てくれたりするようになったのだけど。

 13階のヤツらが「蔵木さんはもうお茶入れなくて良いよ」などと言い出すようになってしまったので、「私の趣味を返して! 」と、文句を言いに行くのは、もう少し後の、は・な・し。




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

ソラ・コーポレーションの夏休みも無事終わりました。

明日からまたおしごとがんばろうねー。という空社長の声が聞こえてきそうです。


今回は夏のお話し。皆さまもこれから夏休みを迎えると思いますが、どうか熱中症などにはくれぐれも気をつけて、楽しいバカンスをお過ごし下さいね。


今後もソラ・コーポレーションでは色々繰り広げられそうですので、ぜひ、遊びにいらして下さい。その際には、遊井名田くんの入れるおいしーいお茶でお迎えさせて頂きます(あくまで気持ちだけね)


それでは、またお目にかかれるのを楽しみに。


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