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夕日の奇跡


 午前中を利用して行われたドライビングコンテストも、たくさんの笑顔を残して無事終わり、午後はおのおのが好きなことをして時間を過ごしている。



 那波とアスラは、お姉様たちへのお礼とお土産を買いに、遊井名田家の所有する車を借りて、ドライブインやリゾートホテルを回っている。

 ただし、車を借りるって言っても、来たときに乗せてもらったマイクロバスとかじゃないのよ。高級スポーツカーから軽自動車まで、ここはレンタカー屋かー! って言うほど種類が豊富なの。

 私もちょっと前に、一直さんとこのあたりをドライブするのにお借りしました。前から運転してみたかった車高が高めのSUV。それはそれは楽しかったわー。


 社長2人と奥様はお疲れになったのか、部屋で午睡のお時間。


 で、おひまになったデラルドさんはと言うと、おつきあいを承諾されたフローラと、こちらもかっこいいスポーツカーを借りて、ドライブをしてくるとのことだ。


 で、哀れリリーは、1人でお部屋に取り残され、てはいないわよ。

 今日は最新のSF映画が手に入ったと言うので、大画面シアターで鑑賞会だ。そこに参加している。他には手塚夫妻(えっと、一直さんと私のことです)。半田夫妻。甚大と彼氏。加福さん、末山さん。遊井名田くんも。

 もともとは遊井名田くんが見たかったんですって。

「この作品は、外国ではすでに上映されている、評判のすごく良いエンターテイメントSF映画なんです」

 と、遊井名田くんにしては珍しく力説していたのを聞いた加福さんが、ノリノリになって、それなら皆で見ようと言うことになったらしい。

 私たちは、本物の映画館みたいに、ポップコーンとお飲み物付きで、その映画を思いっきり楽しんだのだった。

 映画? もちろん、面白かったわよ~。内容はネタバレになるから、内緒ね。



 上映が終わって外へ出てみると、そろそろ日が傾き始める頃だった。


 その日は朝から本当に雲ひとつない良いお天気だったので、

「今日はいい写真が撮れそうだ」

 と、夕暮れ時は撮影に専念する人が多い気配だ。


 一直さんも、部屋へ帰るとカメラの手入れを始めだした。

「今日は絶好の撮影日和だものね、私も一応こっちを持って行っとこうーっと」

 と、私はいつも旅行などに持って行く、小さなデジカメを取り出した。

「うん、そうだね。今日は…」

「? 」

「何だか良いことがありそうだ」

 一直さんの予知? 珍しいわ、日頃はそんなこと口にしないのに。

「珍しーい。でも一直さんが言うなら、きっとそうなのね」

 と、えいやっと腕につかまると、予想していなかった一直さんがバランスを崩して、ふたりしてパフッとベッドに転がってしまう。そのまましばらくふざけあっていた、のだけど。

「恭…」

 あ、一直さんの瞳がまた甘く揺れ出しちゃった。

 もうー、その瞳は反則…。と、私も見つめ返し…。

 あ! いけないいけない! こんな絶好日和に、夕日を逃すわけには行かないわ! と言うわけで、私はありったけの理性を総動員して、一直さんをなんとか説得したのだった。えらいぞ、わたし! 



 夕食前の芝生広場に、人が集まり始める。

 日を追うごとに、カメラが大好きで本当に撮影を楽しみにしている人には、自然にベストポイントを譲る暗黙の了解のようなものが出来上がっていた。

 今も、花壇の柵あたりには、彼らがたたずみながら、今か今かと夕日を待っている。


 そして。

 何かの小説で読んだ事があるフレーズだけど、今日も太陽は忘れられないように、1番綺麗な姿を見せて海に沈んでいく。


 と、その瞬間! 

「え? 」

「あれは…」

「すごい! 」


 それは太陽が海に落ちる直前のこと。

 なんと、太陽が緑色に輝いたのだ!


 グリーンフラッシュ。日が沈むときに一瞬だけ太陽が緑に輝く現象。いくつかの条件が重なり合って出来るこの現象は、非常にまれで、特定の地域では、グリーンフラッシュを見たものには、幸せが訪れると言われている。


「うおー! 今の、撮ったぜえ」

「俺も俺も! ここはやっぱり夕日の絶景ポイントなんだな」

「こんなことも、あるもんなんですな」

 口々に喜び合う社員たち。さすがにこれは写真を趣味にしていない人たちも、大喜びだ。


 でも!

「素敵…。…しまった。シャッター押すの忘れてた! 」

 一瞬のことだし、見とれてしまって、私はグリーンフラッシュを、写真に納めることが出来ずじまいだった。なんてこと。残念~。


「一直さん、今の! 」

「ああ、ちゃんとカメラに収めたよ」

「でもすごい! 一直さんが言ってた良いこと、起こったわね」

「ああ」


 そんな会話の間も、たった今撮影した夕日を見せ合う社員たち。

 興奮冷めやらぬ彼らを見ながら、これからもみんなが幸せでいられますように、と心でお願いして。

 私は一直さんに腕をからめながら、夜へと変化していく空と海を見つめ続けていた。




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