バカンスは順調に
初日にあんなに綺麗な夕日が撮影できたので、写真好きグループは、「こりゃあ、大賞も夢じゃないかもな」などと、がぜん張り切る様子を見せていた。
とはいえ、2週間びっちり撮影ばかりするんじゃ、せっかくのバカンス休暇が台無しなので、空社長もそのあたりは心得ている。
「景色は綺麗だけど、あんまりガチガチにならないでよね~。バカンス半分ってかんじでね」
まあ、毎日すごくいいお天気ばかりじゃないから、適度な休憩は出来るんだけどね。でも、写真が趣味の人にしてみれば、こんなに素晴らしいバカンスはないんですって。
で、そこまで写真に没頭していないグループ(私も含めて、エヘヘ)はといえば。
パシャッ
「うーん、きーもちいいー」
「加福、邪魔だ。せっかくターンの練習をしていたのに」
「なになにー、こーんなとこまできて、そんな真面目に泳がなくてもいいじゃない、ねえ、リリー」
「…末山さん、すてき…」
目ハートのリリーに、肩をすくめる加福さん。
もうおわかりね。若い組は、プールに興じたり。
フォァーーー!
「あれー、半田ちゃーん。珍しいじゃない」
「あっと、ちょっと力が入りすぎましたかな」
「ドンマイ。次で挽回してよね。ちょっと時渡、いつまでもそこにいたら、俺がティショット打てないじゃない」
年寄り組(失礼)は、ゴルフに興じたり。
ここのコースはけっこうアップダウンが激しくて、すごーく難しいのよ。というのは、私も1度だけコースを回らせてもらって、その1度がさんざんだったので、とりあえず2回目はパスしてる。
それ以外にも、敷地の中にはテニスコートあり、バスケのゴールあり。
室内には本格的なジムもあるので、末山さんは「身体がなまらなくていいな」と、とても嬉しそうだった。
そしてそして、大画面のシアタールームがあったり、各種楽器が演奏できるお部屋や、カラオケルームまで完備している。
なんなのー! この充実した設備はー! ここは本当に個人の別荘なの? こうなったら、那波の言うとおり、本格的にお願いして、来年から社員旅行は、遊井名田家別荘めぐりをさせてもらおうかしら。などと本気で考えてしまうのだった。
その日は、ちょうどこのバカンスも折り返しの日。
皆、ここでの休暇を充分満喫しているんだけど、ホスト側の遊井名田サイドが、ちょっとしたお楽しみを考えてくれていた。
それは、ドラコン。
ゴルフのドライビング・コンテストのこと。
たいていはゲームの中で行うんだけど、今日のは純粋にドライバーでの飛距離のみを競うものなんだって。それなら、ほとんどゴルフ初心者の私みたいなのでも、参加できるからって。
「なんだかおもしろそうね」
「そうだね。恭はいいところまで行くかもしれないよ。なぜかはわからないけど、恭ってドライバーはものすごく飛ぶよね」
「エヘヘ」
そうなの。私って他のクラブはド下手なんだけど、なぜかドライバーだけは得意で、けっこうな距離が出るのよねー。まあ、ゴルフは飛ばせばいいってもんじゃないからね。
そんなわけで、今日のドラコン大会は、ほぼ全員参加だ。
「うーん腕が鳴るわあー! さあさあいくわよー」
1番手は甚大。お楽しみのドラコンだから、ひとり2球ずつ打てることになっている。
ビシュッ!
やるわね、甚大ってこんなにゴルフ上手だったかしら。けれど、2球目は欲を出しすぎて球はコースを外れてしまう。
「あらー、悔しいー」
次に打った彼氏もなかなかのもの。
そして加福さん。
「さあーてと。こんな大会があるってわかってたら、もっと練習したのにー」
と言いつつ、甚大を抜いてしまう。「あれ、音川より飛んじゃったー」などと喜ぶ加福さんに、悔しがる甚大。
お次は末山さんだ。
バスッ!
何事にも手を抜かない真面目な末山さんは、プロのような綺麗なフォームでスイングする。当然、皆を軽々と抜いてしまう。
年寄り組の社長2人と、空社長と半田さんの奥様2人組? も大健闘なさっている。
さて、最後は1番の若手、遊井名田くん。
キィン!
こちらも慣れた様子でスイングし、末山さんとほぼ並ぶ勢いだ。ここからだと、どちらが遠くにあるのか、微妙なところだ。
さて、私たち女子は、少し前から打たせてもらえる事になっている。ラッキー。
まずリリー。
「ゴルフ初めてなんですー」と言う彼女は、ここへ来てからフローラと末山さんに特訓してもらい、なんとかスイングだけは出来るようになっていた。
パシィ
とクラブに振り回されているようなスイングだったけど、ボールはちゃんと飛んでいって、「きゃあー当たったー」と、大はしゃぎしていた。
そして那波。
スコーン!
と、女性特有のしなやかさを使ったスイングで、かなり飛ばしはしたけれど、「ゴルフ久しぶりー」と言っていたからカンが戻ってないみたいね。
で、私。
「ぜえったい、飛ばす! 」と、頑張ったんだけど、惜しくも加福さんと同じあたりで止まってしまった。でも、甚大より飛んだわよ。そんな甚大には、「恭の馬鹿力! 」と、悔し紛れに言われたんだけどね。
で、ここからがややしいところ。
一直さんとパンダさん、そしてもう1人は男性が打ったティより、かなり後ろに控えている。というのも、彼らはヒューマンハーフなので。
けれどその中でも、身体能力が個々に違うので、パンダさんともう1人はほぼ同じ位置。一直さんだけが、それよりもう少し遠くにいるの。
最初にパンダさんが1球目を打った。
ヒュウーーーー
見る間に末山さんの球さえ抜かしていく。
「ええー?、半田くん、すごいんだねぇ。俺たちとコース回るときは、相当おさえてたんだー」
空社長が感心したように言う。
ビックリしたけど、きっと本気出すとこうなるから、社長や私たちと回るときは力を加減してたみたい。でも、わたしたちとプレーするときも、とっても楽しそうなのよ。
そして、もう1人が打った球も、かなり遠くまで飛んでいた。
あ、次は一直さん。
ビュッ
と、飛んだ球は…。
なんと、あっという間にグリーンまで飛んでいき、そのままピンに当たってカップに入ってしまった。
「ドラコンでホールインワンって、なによそれ、一直」
などと甚大が文句を言っているが、私は思わず「一直さん、ステキ…」と口から出てしまい、リリーに「のろけですかー」と指摘されてしまった。
でね。オーラスはというと。
悪魔のおふたり。
アスラとデラルドさんは、もっと、もーーっと遠いところにいた。
あ、フローラはね、リリーが心配だから彼女のそばにいるって言って、参加していない。
けれど、またまた、悪魔のおふたりがやらかしてしまいました。
バリバリバリ、と、こんなに遠いのに、殺気がぶつかり合うのがわかるほとだった、アスラとデラルドさん。
2人は同時にティショットを打ったらしいんだけど…。
ゴゴゴゴーーーー!
とてもゴルフとは思えない擬音とともに、高速で飛んでいったボールはね、そのまま海のかなたへと飛んでいってしまったとさ。
「やりますね」
「あんたには負けないぜ」
そのあと。
「2人とも、海に落としたボールは各自で回収すること。いくら負けたくないからって、こんな綺麗な海を汚すなんて、ありえないわ」
フローラにきつく叱られて、シュンとなったアスラとデラルドさん。けど、その2分後。海に沈んで行ったはずのボールは、無事すべて回収されていた。
さすが、悪魔…。
結局、優勝は半田さんの手に輝いたのだ。お人柄からか、全員から祝福の拍手を受けている。
そしてなんと、遊井名田家が優勝の賞品まで用意していたの。
何種類かの中から選べるようになっていたんだけど、さすが愛妻家の半田さん。奥様と楽しみたいからと、某有名レストランの招待券を受け取っていた。




