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夕日の企画


 うちの会社の12階に簡易キッチンをつけるための企画を、ふと思いついてしまった。



 この間、時渡社長とランチでお会いしたとき、夕日の情報云々言ってる時に、社長がコンテストがどうのこうのって話してたのよね。確か賞金が出るとか言ってたので、それを利用できないかしらって。

 なんだっけ…夕日コンテスト? 違うな…、あ! 

「夕日のフォトコンテストだわ! 」


 夕食後、いつものようにリビングでソファに並んで座りながら、一直さんと私は思い思いに時間を過ごしていた。一直さんは読みかけだった本の続きを開いている。私は自分のパソコンで調べ物をするうち、ふと簡易キッチンの企画の事が頭をよぎり、コンテスト名を思い出したとたん、声を上げていた。


「夕日のフォトコンテスト? それが、どうかしたの? 」

 すると、聞こえちゃったのか、(そりゃあ聞こえるわよね、こーんなにくっついて座ってるんだもの)一直さんが聞いてくる。

「あ、あのね、この間ランチで時渡社長に会ったって言ったじゃない。その時に言ってたコンテストの名前を思い出したの。で、これは今考えてる、12階に簡易キッチンを作る企画に使えるんじゃないかって思って。えーと、」

 私は一直さんに説明するべく、検索をはじめる。

「あ、あったあった、これだわ。毎年かなりの力作が登場しているそうよ。で、…今年で20年目を迎えるこのコンテストの賞金が破格であるともっぱらの評判だ、ですって。えっと、賞金賞金。どこにあるのかな、え?、ええっーー!? ちょっと、なにこの金額! 」

 20周年記念とは言え、くだんのコンテストの賞金は、なんと、簡易キッチンどころか最新式のシステムキッチンをつけてもまだあり余るほど馬鹿高いものだった。

 びっくりして大声を出す私の後ろからマウスの手に手を重ねてきた一直さんが、画面を見ながら言う。

「ホントだ。すごいね、このコンテスト。けどその分、審査もかなり厳しいんじゃない」

「そうよねー。けど、もしも、もしも優勝なんかしちゃったら、12階にキッチンつけた上に、今回の旅行代まで出るわよ」

 などと勝手なことを言うと、一直さんは後ろから私の肩にあごを乗せて言う。

「でもそれなら、俺たちが大賞狙わなきゃ。うーん、そうだな、じゃあ俺も、久しぶりに写真撮ってみるか」

「え? あ、そう言えば一直さん、カッコいいカメラ持ってたわね」

「うん、カッコイイかどうかは別として」

 と会話しているうちに、なぜか私はすっぽりと一直さんに抱きすくめられている。

「えーと、この体勢は…」

 私はモゾモゾしながら、これからコンテストの詳細読んで、企画の下地を作らなくちゃならないの~、と言ったけど、時すでに遅し。

「そんなの、優秀な恭の手に掛かれば、あっという間だよ…」

 うー、その耳元のささやきと、甘~い微笑みは反則よー。あとはいつものごとく、一直さんの魅力にあらがえず、流れに身を任せてしまった私なのでした。



 で、翌々日。

 とりあえず無事に企画書を社長に提出することが出来た。なぜ翌々日になってしまったかは、まあおいといて。

 いつものごとく、朝のお茶を入れに来た遊井名田くんに、フォトコンテストをからめた簡易キッチン設置作戦の事を話してみた。

「夕日のフォトコンテスト、ですか」

「そうそう。以前にね、ここのキッチンをつけたときも、色んなコンテストを利用した社長のアイデアで資金を捻出してもらったの。で、そのお礼って訳でもないんだけど、ちょっと真似しちゃおうかなって。ちょうど今年のロング夏休みに、夕日の綺麗な所へ出かけるつもりだから、企画が通らなくてもコンテストには挑戦するつもりでいるけどね」

「そうですか、ちなみに、その夕日の綺麗な所ってどこですか」

 遊井名田くんが、そう聞いてくるので場所を教えてあげる。

「ああ、確かに夕日は美しいですね」

「遊井名田くん知ってるの? 」

「ええ、まあ」

 と、何か考える様子を見せていたのだけど、後は何も言わずにお茶を入れ始めた。


 午後になって。

 その日は、12階も13階も比較的ゆっくりした日で、3時のお茶を用意しようかなーと席を立ったとき、遊井名田くんがやって来るのが見えた。

「ああ、そっちも余裕があるのね」

「はい」

 じゃあお先にどうぞ、と、場所を後輩に譲ると、遊井名田くんが何やらプリントアウトした紙を差し出してくる。

「? なに」

 受け取ると、今度行こうと思っている場所の地図と、そのあたりのもう少し詳細な地図。けど、見るとそこはただの広大な敷地があるだけだ。それとなぜかゴルフコースのパンフレットが添えられている。

「どうしたの、これ」

「えっと、今度このあたりへ行かれるんですよね。で、俺のわがままで始めたお茶くみに、簡易キッチンのことまで考えてくれて、何か協力できないかと」

「ああ、じゃあ遊井名田くんもコンテストに応募する? 」

「…その手もありましたか。でもとりあえずは、この地図の場所、何もないみたいですが、実はうちの所有地で。うちの別荘が建っています」

「へ? 」

 あまりにも意外なことを言う遊井名田くんに、変な答え方をしてしまう。

 うちの所有地? 別荘? 

「どうせ行くなら、そこにお招きしてもいいかと。さっき確認したら、この夏は特に別荘での予定は入っていないようでしたし。あ、それから、ここのゴルフコースもうちのなので、自由に使って頂けます」

「は? 」

 うちのゴルフコース?  


 私は、口を両手でふさぎ、すんでの所で大声を上げずにすんだ。

 で、テンパった私は、何を思ったのか遊井名田くんを一直さんの席に引っ張っていき。

「い、い、い、一直さん! どうしよう、別荘が! ゴルフコースって! 実は温泉もあったり、プライベートビーチもあったり」

 2人をしゃがませて、あることないこと? 一直さんに吹き込む。

 最初は驚いていた2人だったが、「まあまあ落ち着いて、恭」と、一直さんは優しく私を立たせて自分の席に座らせると、遊井名田くんから事の顛末を聞き出した。


「なるほど、それはありがたいね」

「ありがたいって、それだけ?! だって温泉よ、プライベートビーチよ」

 と、なぜかありもしない方の事を言い出す私に、遊井名田くんは苦笑しながら答える。

「残念ながら、この別荘には温泉もプライベートビーチもないんです。そういうのが良ければ、他の所にありますけど…」

「! 」

 また驚く私を落ち着かせるべく、肩に手を置いて一直さんが言う。

「恭、しっかり。でもね、聞くところによると、今回の旅行ってさ、俺たちの知らない間にどんどん大所帯になってるみたいなんだよ。誰かが勝手に皆を誘ってるらしくて」

「…」

 きっと時渡社長だわ! もうー、今度はなにを吹聴してまわってるのー。

「今からそんなにたくさんの人数が泊まれるホテルが開いてるかどうか、頭が痛かったんだけど、こういうのを渡りに船っていうのかな」

 そこで言葉を切ると、一直さんは遊井名田くんに向き直って言った。

「でね、せっかくだから遊井名田くんも是非参加してよ。って言っても、いつも行ってるだろうから、新鮮味はないかもしれないけど」

 すると、少し考えるようにしていた遊井名田くんがおもむろに言う。

「そうですね、俺が行った方が何かと便利かもしれませんね。わかりました、ご一緒します」

「そういう意味で誘ったんじゃないからね。純粋に皆と楽しんでほしいだけだよ」

「はい、わかっています」

 苦笑する一直さんに、こちらは真面目に答える遊井名田くんだった。



 その日の終業直前になって、社長が私の席にやってきた。

「蔵木くん、企画書見せてもらったよ」

「あ、はい」

「でね、簡易キッチンはともかく、夕日を見に行く話は、時渡からも再三聞かされててねー」

「あら、やっぱり」

 私はさっきの一直さんの話を顧みて、思わず言ってしまう。すると、空社長は「知ってたの? 」と、笑って言った。

「で、さっき遊井名田くんから、宿泊の心配はしなくていいって聞いてさー。これってもう企画通ったようなもんだね」

「はい! ありがとうございます」

 嬉しい返事をした私に、けど、そこはやっぱり空社長。

「けど、結果が出なくちゃ、通した意味がないじゃない? そこはお互い頑張ろうねー」

 にこりと笑って、なかなか厳しいことをおっしゃる。でも、空社長に言われると、なぜか燃えてくるのよね。

 静かに闘志を燃やしていたのだが、ふと、聞き捨てならないセリフを聞いたような気がした。

「社長、今、お互い頑張ろうって言いました? 」

「うん」

「と言うことは、社長も来られるんですか? 」

 驚いて言う私に、仕方がないという表情で社長が言った。

「恒例の強制参加だよ、時渡の」

「あらー」

 なんと、時渡社長はまたまた無理難題を押し通したらしい。



 と言うわけで。

〔12階に簡易キッチンを作るため、夕日のフォトコンテストで優勝をもぎ取ろう! 〕と題した今回の旅行企画。参加するのは。

 アスラ・那波夫妻と私たち夫婦。空社長とパンダさんのところは、もちろんご夫婦で。甚大も彼氏を連れて来るって。

 それからそれから、加福さんに末山さん。リリィはフローラを誘っている。

 それ以外にも、プライベートで写真を趣味にしている人が数名。理由を聞いてみると、あの夕日の景勝地に2週間近く滞在して、毎日写真が撮れるなんて、パラダイス! だと言うことだ。今回はコンテストにも応募するので、腕が鳴るらしいしね。

 遊井名田くんは現地で色々指示しながらの参加と言うことだ。

 最後に、もちろん時渡社長とデラルドさん。


 老若男女入り交じってのバケーションは、なんだか騒がしいことになりそうだった。




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