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バカンス相談会


 ソラ・コーポレーションの社員は、毎年、夏はロングバケーションを取るのが恒例となっている。


 で、例年ほとんどの社員がいなくて開店休業状態になるので、何年か前に、全社員はもちろん取引先にも了解をとって、8月の半ば2週間ほどは会社自体をお休みにすることに決まったの。

 今年もまた8月が近づくと、休暇をどう過ごそうかと皆、ワクワクしはじめる。

 そんな夏の初めのお昼休み。


「恭ちゃんたちは今年、どうするの? 」

「え? ああ、休暇のこと? 」

「うん」

「うーん、まだ決めてないのよそれが。そういう那波たちはどうするの? 」

 たまには女2人でランチに行こうよ、と、他の人には遠慮して頂いて、那波と会社近くのおしゃれでとっても美味なフレンチに来ている。あ、その上ランチだからとってもリーズナブル! 美しい前菜にうっとりしていると、那波がそんな話をしてきたのだ。


「実はね、この間アスラくんのお姉さんたちが、こっちの世界のガイドブックでね、夕日が美しいリゾートっていうのを見つけて、行ってきたんですって。そのあと、ほんっとにサンライズが綺麗だったから、あなたたちもぜひ見に行ってらっしゃい! って大絶賛しておすすめしてくれてるのよね」

「へえ~」


 ここで説明。アスラには、3歳年上のお姉様がいる。しかも双子の! 

 このお姉様たちが、小さい頃はアスラを溺愛していたらしく、フルストヴェングラー家には、アスラの母親が3人いるんですな、と言われるほどだったそう。

 でも、さすがに魔女といえども3歳年上では考える事も幼くてね、アスラにいつまでも穢れを知らぬ幼子でいてほしかったお姉様方は、

「鏡渡りのサイズになるときは、幼児語でしゃべらねばならないの、それがフルストヴェングラー家代々の言い伝えなのよ! 」

 と、訳のわからぬ事を信じ込ませてしまったらしい。なので、アスラはいまだにチビッコアスラでいるときは、赤ちゃん言葉になってしまうんですって。(と、お姉様方が言っていた)


「でね。もしよければ、恭ちゃんとこも一緒にどうかなって」

「え? それはとっても嬉しいんだけど。そんなことアスラが承知したの? 」

 ご存じの通り、アスラと私はお互い遠慮がないって言うか、言いたいことをズケズケ言っちゃう者同士。

「それは大丈夫みたいよ。口うるさい方の姉には慣れっこですって、ふふっ」

「なにー」

 などと言いつつ、それはアスラ流の照れ隠しだってわかってるから、那波と顔を見合わせて微笑み合っていた、とそのとき。



「よっ、聞いちゃったよお~ん! なにー、そおんなにサンライズの美しい場所があるのー? 俺にも教えてくれなくちゃだめじゃなーい! 」

 聞き覚えのある声がしたかと思うと、突然椅子をクルッとまわしてこちらを向いたその顔は。

「時渡社長! 」

 やっぱりー。

 うちのライバル、と勝手におっしゃりながら、じつは空社長大好きの時渡社長その人だった。

 で、当然のことながら。

「ご無沙汰しております。こんなところでお目にかかるとは、奇遇ですね」

 出た! 私の、と言うより一直さんの天敵、デラルドさんだ。彼は時渡社長の秘書をしている。


 で、同席の許可もとらずに、勝手にウェイターに声をかけ、あっけにとられる私たちが反論する暇もなく、2人は3分後、私たちのテーブルに着いていた。

「今更ですが、同席をお許し願います」

 相変わらず言い方に抑揚のないデラルドさんは、それでも少し頭を下げて私たちに言った。

「ここまできて駄目だって言う方が、悪者扱いよね、この場合」

「おそれいります」

「そうそう。若者は年寄りを立てなくちゃねー」

 いかにも嫌そうな表情を作って言うんだけど、時渡社長には全然効いてない。クスクス笑う那波が、場を取り持つように言い出した。

「お久しぶりです、時渡社長。それで、社長も夕日の美しいリゾートの事が知りたいのですよね? 」

「おう、それそれ。誰がそんなとこ知ってたの? 」

「那波のご主人の、お姉様ですよ」

「アスラくんのお姉様というと、リネーアか、ロビーサですか?」

 すると那波がちょっぴりビックリしたように言う。

「あ、ご存じなんですね。さすが異界の方ですね。そう、そのおふたりが行って来たそうなんです」

「ほほう」

 今まで興味なさそうにしていたデラルドさんが、何だかちょっと気を引かれたみたい。

 やっぱり異界の2大名門と言われているフルストヴェングラー家とジツェルマン家だから、相手の家やその家族の動向が気になるのかしらね。


「もう、本当に素敵だったんですって。でも、夕日のベストシーズンは夏なんだそうです。だから、アスラくんと私に、ぜひとも夏の夕日を見せてあげたいって」

「あら、だったらお姉様たちももう一度来れば良いのに」

「それがね。今年は魔界ユリが大豊作らしくて、お義母さまに薬草作りのお手伝いをお願いされちゃったから、って」

「そうなの」

 アスラのお母様は知る人ぞ知る、薬草マイスターなのだ。

 それにしても、異界にもユリがあることと、ユリも薬草になるんだと初めて知った。ひとり感心していると、またまた時渡社長が口をはさんでくる。


「そおんなことより、リゾートのこと教えてよー」

「あ、はい。でもさすがに時間がないので、簡単な事だけ今お話しして、詳細は帰ったらメールをお送りしておきますね」

「ええ? ああそうか、今はお昼休みなんだね。うんーじゃあ仕方ない。話を聞きながら、食事を楽しもうじゃないか」

 などと、水の入ったグラス(さすがに仕事中ですから)を高々と持ち上げる時渡社長。

 ふふ、と笑いながら、那波はリゾートの話を始めだした。


 それでね、そのあとなんと! 食後のお茶とともに、頼んだ覚えのないスイーツが運ばれてきたの。

「? えっと、どこかのテーブルと間違えてるんじゃ…」

 ウェイターに言うと、横から社長がまた割って入る。

「ああーこれは俺からのおごり。情報のお礼だよ~」

 私は那波と顔を見合わせて、ちょっとビックリした。時渡社長ってこんなに気の利く人だったかしら。

「なっ」

 そう言ってデラルドさんを見る社長に、納得。

 やっぱり彼の提言だったのね。それにしてもいつの間にそんな相談をしたのかしら。


「ありがとうございます」

「それでは、遠慮なく」

 運ばれてきちゃったからには、食べないでいるのも失礼よね。那波と私はありがたくそのスイーツを頂いたのだった。

 これがね、お店自慢の一品で、とおーっても美味しかったのよー。




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