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ひとけたの吹奏楽部

『全日本吹奏楽コンクール』

夏から秋にかけておこなわれる、吹奏楽の大会である。

全国の小学生から社会人までの幅広い年代の吹奏楽団体が、(小学校は自由曲のみだが)課題曲と自由曲を演奏することで技術と表現力を競い、全国の頂点を目指す。

特に、青春を音楽にかける強豪高校の大会までの道のりは全国的に放送され、漫画や小説などからもその情熱と苛酷さは知られている。「吹奏楽部は文化部だが体育会系だ」というコメントは幾度か聞いたことのある人も居るだろう。

高校の部全国大会が行われる普門館は“吹奏楽部の甲子園”と呼ばれ、憧れの場所となっている。吹奏楽をしていない人々でも知っている人は知っているかもしれない。


……さて。

吹奏楽コンクールには、幾つかの部門が存在する。

上記のように、年齢層毎に『小学校の部』『中学校の部』『高等学校の部』『大学の部』『一般の部』とする分け方。

そして、更に分類される、その部門が『大編成の部』と『小編成の部』である。

一般にピックアップされるのは所謂、大編成の部。

“吹奏楽部の甲子園”である普門館で全国大会が行われるのも、高等学校大編成の部である。

……つまり、小編成の部を知る人は、少ない。


小編成の部とは、34人以下の少人数で構成される団体が出場する部門だ。この部門には、そもそも全国大会が存在しない。大編成の演奏する課題曲も、ない。

では、小編成の部は大編成の部と比べて楽をしているのではないか?……そんことはない。

大編成に匹敵する練習を重ね、高みを目指す。夏を、青春を音楽にかけているのは同じだ。

加えて、本当に少ない団体になると、大編成では滅多に起こり得ない『楽器パートが足りない』という事態が発生する。

地方の大会では小編成が多く、大編成は殆ど全ての団体が次の大会に駒を進めることができるにも関わらず、小編成の倍率は異様に高かったりする。


大編成と比べて注目度が薄い小編成。大学等の進学後も、大編成だった学校からは知らないなどと言われる始末。

……小編成には、ドラマが無いとでも?

そんなはずはない。

小編成でも、上手い学校は上手い。人数が少いからこそ、工夫された演奏は、高い完成度であればあるほど感動を呼ぶものだ。




───だから、今から諦めてどうする!?


まだ、コートとストーブが必要な三月上旬の北日本。

コーヒーとノートを手に、パソコンにかじりつく男が、一人。

検索ワードに「吹奏楽曲 小編成」と打ち込む彼は、銀木しろき農業高校農業科二年の剣崎聖つるぎさきひじり。創立110年となる農業高校の、創部何年かわからない吹奏楽部で後期から部長をつとめている。

卒業式を数日前に終えた銀木農業高校吹奏楽部は、二年生を中心に、ある準備を始めていた。

全日本吹奏楽コンクールで演奏する自由曲の決定である。

特に、聖は小学校から吹奏楽を続けている事もあり、候補曲を幾つか出すようにと他の二年生や顧問の先生から言われていた。

……いや、お前らも考えろよ、と思ったが口には出さなかった。と、いうか出せなかった。

「……ねぇよ、これ」

一時間半ネットを巡り、しかめっ面で書き出した三曲を眺める。

必要な楽器とグレード(難易度)を確認し、サンプルや過去の団体の演奏会で曲の雰囲気を確認する。

……中々決まらない理由は三つある。

一つは、単に聖の好みに合わない。自分も演奏するのだから、好きだと思えるものがいい。

二つ目は、難易度。難しすぎたり簡単すぎたりと、丁度良いものがない。銀木農業高校は所謂弱小高校なので難しいものはできないが、簡単すぎても……嫌だ。高校生だし、良い成績もとりたい。

三つ目は、必要な楽器だ。

最大の、問題。

「……来年に期待しようにも……実績もない下手くそなうちの学校に、誰が入るんだろうな……」

自虐的に笑う、聖が率いる吹奏楽部は……現在、一二年で七人しか所属していなかった。

小編成も小編成。一昔前の部門分けでは、C編成といわれていた人数なのだ。

とにもかくにも、人が足りない。

目下、最大の問題であった。

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