新たな門出
両親の仲が悪くなったのはいつからだっけ?
そんな事を俺は試合中に考えながら相手と戦っていた。今、俺がやっている試合はアメリカの中でも結構大きなトーナメントの準決勝でそんなどうしようもないことを考えながらできることではなかった。でも、それでも、母親の生まれ故郷、日本に帰ることが決まっている状況でかんがえていた。
俺が小さなころ、両親は周りが羨むほど仲が良かった。よく一緒にピクニックにいったりいろいろなところに連れて行ってくれた。だけど父親のアメリカ転勤が決まり、こっちに引っ越してから2人は変わってしまった。
毎日聞こえる両親の怒鳴り声と皿の割れる音。母親はどんどん痩せていった。
中学2年だった俺でももうすぐ離婚することが分かるくらい関係は冷めきっていた。
あぁそうだ…俺がテニス始めてからだ…
“パキャ"
俺は打ち損じたボールの音で我に返った。ふらふらと力なく上がったボールを相手が見逃してくれるはずがなくそのボールは無情にも俺の足元に叩きつけられた。
その瞬間、俺、成宮大輔のアメリカでのテニス生活が終わった。
あの大会から1週間後、大輔はアメリカをでるため空港にいた。
両親の離婚は成立し大輔は母親に引き取られることになった。あの優しかった父親は一度もアメリカに残れとは言ってくれなかった。それが大輔に日本に帰ることを決意させた。
母親の手続きがすむまで俺は何度も背負ってきた萎びれたラケットバックから愛用のラケットを取り出した。あっちでもテニスはやると決めてはいたが。いざ帰るとなると不安感が襲ってくる。
ガットの網目を直していると網目越しにこちらに走ってくる金髪の少年が目に入った。
見間違えるはずがない。アメリカで一番最初に仲良くなって長い間、俺のダブルスのパートナーだったクリスだ。
空港内を全力で走ってくるクリスは俺の前で急停止した。その様子から見て家から空港まで走ってきたのだろう。
でも1時間以上かかるんじゃないか…?
「ダイスケー!行くときくらい連絡しろよー!母さんから聞いてから死に物狂いでここまできたんだよ!」
汗だくの鬼の形相で俺に詰め寄ってくるクリスを押し返し、俺は申しわけなさそうに謝った。
「仕方ないだろ?お前に言ったら泣きついて離れないんだから。それにまた帰ってくんだから大げさだよ」
半泣きのクリスに笑顔で言い返すとそちらも半ば納得した顔で大輔の肩を掴んだ。
「日本でもテニス頑張れよ!それで…それで…またいつかどっかで会おうな…」
ポロポロと堪えていた涙がこぼれていくクリスを見て俺もつられそうになるがグッとこらえて2人で試合に勝った時にいつもするグータッチをして別れた。
「あぁいつかどっかの大会で…」
俺はクリスに聞こえないように堅い決意を表した言葉をつぶやいた。
そこから14時間後、大輔は母親の実家のある神奈川県に到着した。
初めての投稿です。
できる限り定期的に更新していくので暇つぶしにみていってください。