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その後【4】

ラーシュのターン!

 その日、私とラーシュはいつものようにデートという名の町歩きをしていた。違ったのは、昼過ぎから降り始めた雨である。ポツポツと降り出した雨はすぐに本降りに変わった。ゲリラ豪雨とか久々に体験したわ。前世ではたまにあったような気もするけど……。


 まあ、その結果。どこかの店に入りがてら雨宿りしようか、とか呑気なことを言っている間にビショビショに濡れるという大惨事が起こったわけである。


 そして、私が風邪を引くことを恐れたラーシュの申し出により、私の家よりは近くにあったラーシュの家でシャワーをお借りすることと相成ったのでした。はい。


 そういうわけで、ラーシュが後から入ることを考えてパパッと出た私は、ラーシュの服を着ております。ラーシュは今シャワー。現在の服装としては、下着は辛うじて濡れていなかったため同じのをはいたので、それはいい。でもはけるズボンがなかった。ラーシュのやつは長さもさることながらウエスト的にも無理。というわけで、ラーシュの服の中で一番大きなシャツを貸してもらい、ワンピース状態である。


 現状をまとめてみよう。彼氏の家。彼氏の服(上のみ)。お風呂上がり。彼氏は今お風呂。


 ……。


 …………。


 なんかやばくね⁉︎ いやこんな事故みたいなシチュエーションでラーシュがなにかしてきたりとかはそんなまさかないとは思うけど、ねえ‼︎ そもそもこっちの世界では、結婚するまで手を出さないという考え方が主流……とまでは言わないけど、日本よりは一般的だし。大丈夫……なはず。


 ……にしても、ラーシュの服かぁ。借りたのは、大きな黒いシャツである。首元があまりあいていないタイプなので、胸元がやばいとかそんなことにはなっていない。……普段ラーシュが着てるんだよね、これ。当然洗ってはあるけどさ。思わずすりすりと袖の部分に意味もなく頬擦りしつつ、においとか嗅いでみたり……


 カタン。


「ふゅわ⁉︎」


 変な声出た! 後ろから聞こえた物音におそるおそる振り返ると、ちょっとだけ顔を赤くしたラーシュが目を逸らしたところだった。


「しゃしゃしゃシャワー出るの早くない⁉︎」


「ああ、少し急いだ……。その、俺は何も見ていない」


 見られたぁぁぁ!


「ちがっ、これはちがっ!」


「何も見ていない」


 目を逸らしながらそれを言うか! 私は八つ当たり気味にラーシュを睨みつけ……改めて認識してしまったその姿に、慌てて視線を逸らした。これは刺激的すぎる。


 もちろん、服を着ていないとかそんな暴挙に出るラーシュではない。部屋着のような服とはいえ、半袖シャツと長ズボンをきちんと着ている。だが、風呂上がりである。もう一度言う、風呂上がりである。この世界でドライヤーは一般的でないから、髪はタオルでよく拭いただけ。短い金髪もそこからのぞく虎耳も水気を含んでいる。尻尾も、普段とは違う質感だ。半袖シャツは首元がゆったりとしたタイプなので首筋から鎖骨までが見えちゃってたりとかして。半袖なのでもちろん腕は出てるし。綺麗に筋肉が付いててちょっとだけ血管浮いてる感じとか無防備に晒してるし! 極めつけには少し上気した頬と目元で、照れて目を逸らしているワイルド系超絶イケメン。つまり総合すると、私を殺す気ですね? 息ができません。


「……どうした? アドリアーナ」


 相変わらずよく通る低いいい声ですね、まだ追撃を加えるのね。もう私のライフはゼロよ。


 あまりの色気に下を向き、だがジタバタするわけにもいかず無言で悶えていると、くく、とラーシュが低く笑う。


「俺に見惚れたとか?」


「んにっ⁉︎」


 やばい誤魔化さなきゃ誤魔化したいやばい声が出ない口ばっかりパクパクしてるやばい顔熱いこれ絶対赤いなんかちょっと涙目になったかもしれないやばい!!!


 そんな私の反応に、当のラーシュはキョトンと目を丸くした。それからゆっくりと目を細め、意地悪そうに笑う。口角の上がった唇から、長めの犬歯が少しだけのぞいた。あ、この人スイッチ入ったわ。虎ですもんね本性は肉食獣ですよね。


「まさか、本当に見惚れたのか? 笑いながら否定されて、普段通りになると思ったんだけどな」


 だとさ、笑いながら否定しとけよ自分!


 色気ダダ漏れの肉食獣が、獲物を嬲るように、追い詰めるように、ゆっくりと近寄ってくる。あわわわわ。


「本気で照れてるのか。……可愛いな」


 わたわたしていると、大きな手に優しく頭を撫でられた。うわぁぁぁそういう貴方様は本気でスイッチ入っていらっしゃいますね! 当然なんだけど石鹸のにおいとかしちゃったりなんかして心臓の音がうるさいです助けて。


 なんて思っていると、隣に座ったラーシュに抱き寄せられた。硬い胸板と腕の間に緩く拘束される。


「〜〜っ⁉︎」


 もはや声にならない、いっそ殺してくれ。いや殺されたら困るけどなんだこれどうしようこれ。


「はは、緊張し過ぎだろアドリアーナ」


「だ、誰のせいだと……」


 言葉の途中で、またしても大きな手に頭を撫でられる。同じ動きをゆっくりと何度も繰り返されると何となく安心して、力が抜けた。そうすると、胸板に押し付けた耳から、先ほどまでは気付かなかった情報を拾い上げることができた。


「ラーシュの心音、すごい早い」


「……そりゃな」


 そのまま胸板に頬擦りをすると、ラーシュが少しだけ身を固くするのが分かった。私を抱きしめている腕にも、痛くない程度に力が込められる。


「ラーシュ」


「ん?」


「好き」


「んなっ!」


 見上げてみると、ラーシュは真っ赤だった。めちゃくちゃ可愛い。


「おま、……ああもう、アドリアーナ」


「なあに?」


「状況を考えて言ってくれ……。抑えるこっちの身にもなれ」


「……」


 ラーシュの家、お風呂上がり、ラーシュの服(上のみ)。


「……うん、つまり、ラーシュが色っぽいのが全て悪い」


「初めて言われたけどな⁉︎ なんだよ色っぽいって」


「色気ダダ漏れってこと」


「言葉の意味自体は分かるわ。……アドリアーナみたいのを色っぽいって言うんだろ」


「言わんわ!」


 思わずマジレスである。それはない。豚に色気を感じたことはないのである。


「……いやいやいやいや」


 呆れたような顔で否定されたので、こちらも首を振っておいた。


「こちらこそ、いやいやいやいや」


 ラーシュは諦めたように一つため息をつくと、わしゃわしゃと私の頭を撫でた。


「不毛だな、分かり合える気がしない」


「あはは、確かに」


 そのまま力を抜いて凭れかかると、ラーシュはしっかりと支えてくれた。なんとなく、お互いに無言になる。口を開いたのは、ラーシュだった。


「なあ」


「うん?」


「俺に色気がどうのっての、本気か?」


「驚くほど本気」


 そう答えると、ラーシュは腕一本で私の上半身を支えて起き上がらせた。ラーシュと間近で向き合わされる。いつ見ても信じられないほどに整った顔が、片頬だけを歪めてニヤリと笑った。正直ゾクゾクして、顔が熱くなったのは仕方ないと思う。


「今否定しないと俺は今後調子に乗るが、いいのか?」


「私に対してのことに限ってなら、いくらでもどうぞ?」


 ラーシュ以上っていうのは、ちょっとなかなか想像すらもできないし。


 私の答えを聞いたラーシュは満面の笑みを浮かべて、私の額にそっと唇を押し当てた。至近距離での笑顔と額に感じた柔らかさのコンボに、私は更に真っ赤になる。きょ、凶悪だ……。


 あまりのことに俯いた私にラーシュは笑って、もう一度優しく私を抱きしめた。

メイン連載(狐)のほのぼの色が薄れ始めてから、こちらの方が書きやすくてついあいた時間にこちらを書いてしまう……。

自分で考えた話なのに、上手く書けないってどういうことだろう。


ほのぼの平和っていいですよね。

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